現代の企業の活動

経済学の分野は大きくミクロ経済学とマクロ経済学の2つに分かれます。ミクロ経済学は個別の消費者や企業の動きを分析していきます。他方で、マクロ経済学は一国全体の経済の動きを分析していきます。具体的に言うと、高校レベルでは需要と供給、市場の失敗などがミクロ経済学に関わる分野です。他方で、経済主体やGDPの計算などがマクロ経済学に関わる分野となります。ここでは、現代の家計や企業といった経済主体がどのようなものであるかなどについて解説します。

3つの経済主体

経済を大きなマクロの視点で見た場合に、主体となるのは3つであるとされています。家計、企業、政府です。家計は消費者の集合体と考えればよいでしょう。家計は企業に労働力や土地などを提供して賃金や地代をもらい、そのお金で商品を購入します。

家計に関して、ここでいくつか用語を覚えてください。まず、可処分所得です。可処分所得とは、総収入から税金と社会保険料を差し引いたものです。いわゆる「手取り収入」です。多くの場合、企業は労働者に収入の全額を渡さずに、税金と社会保険料を差し引いた分を渡します。これを源泉徴収制度といいます。この制度があるため、労働者は所得税などの直接税を税務署に自分で収めに行く必要がありません。逆に言うと、節税や税に関する感度が鈍くなってしまう点では問題でもあります。

もう一つの用語として、エンゲル係数を知っておいてください。エンゲル係数とは、消費支出に占める食料費の割合です。これは豊かになればなるほど下がる傾向にあります。なぜなら、多くの人は、豊かになればなるほど、高級車や宝石を購入しようとします。一方で、食べられる量には限りがあります。よって、消費支出が増加するほどに、食料費は増加しません。そのためエンゲル係数は豊かになるほどに低下していく傾向にあります。ただし、現実に目を向けると日本は2000年代以降エンゲル係数が上昇してきています。これは貧しくなったのではなく、共働きが増える中で、デパ地下などで弁当や総菜を購入する動きが強まったからだとされています。

次に企業に着目していください。マクロ経済での企業とは、伊藤忠商事やジョーシンや高島屋といった企業の集合体を意味します。企業は利潤追求を目的に活動します。また、企業は拡大再生産を行おうとします。拡大再生産とは、儲けたお金の一部でさらに工場を建設するなどして、より利益を得ようとする行動のことです。

日本の企業のうち株式会社の形態をとっているものが90%以上を占めます。世界初の株式会社は、1602年に設立されたオランダの東インド会社であるとされています。当時のオランダはアジアで収穫された香辛料を輸入していました。しかし、この頃の技術では船が難破することはしょっちゅうあります。そこで、東インド会社が株式会社の仕組みを導入しました。

株式会社制度とは、多くの人からお金を出してもらい、お金を出した人は、経営のリスクを広く負担する代わりに、会社が利益を出したら、その一部を貰える仕組みです。お金の出し手は、株主と呼ばれます。株主は有限責任となっており、会社の経営が失敗しても自分が出したお金が返ってこないだけで、それ以上の損をすることはありません。株主は会社の代表者を決めることなどもできます。1年で最低一回は株主総会というものを開き、一株一票で投票で誰を取締役や監査役にするかと決めることができます。たくさんの株を持っている人が、自分を代表取締役(社長)とすることもできますし、経営の専門家を選ぶこともできます。経営の専門家と株主を分けることを「所有と経営の分離」といった言い方をします。株主は株主代表訴訟といって、株主の利益に反する行動をした場合には、経営陣を裁判所に訴えることができます。株主は会社の持ち主だと言えるのです。ただし、今日の企業には株主の利益だけでなく広く利害関係者(ステークホルダー)のことを考えて経営をすることも求められています。これを企業の社会的責任(CSR)といいます。たとえば、法令を遵守すること(コンプライアンス)はもちろんのこと、メセナと言って芸術活動を支援したり、フィランソロピーといって従業員をボランティア活動に従事させるといった取り組みが求められています。

設立されたばかりの株式会社は、設立者やその家族や友人たちから株式を買ってもらうことで経営をスタートします。その後、その会社が大きくなると、設立者は株式上場を考えます。株式上場とは、証券取引所で、自分の会社の株式を自由に誰にでも購入してもらえるようにすることです。この上場を果たすためには、東京証券取引所が設定した様々な基準を満たす必要があります。一番基準が厳しいのが東京証券取引所プライム市場です。その次にスタンダード市場、グロース市場(新興市場)と続きます。より大きな市場に株式を上場することができれば、株価は急激に跳ね上がる傾向にあります。株式会社の設立者は設立当初から株式をもっているため、かなりのキャピタルゲインを獲得できます。いわゆる「創業者利得」というやつです。

最後に、株式会社以外の仕組みとしては、持分会社という仕組みについても解説しておきます。この仕組みは、株式会社制度に比べて自由度が高いため、小規模で家族経営を行うような場合に向いている制度です。持分会社にも、株式会社同様に資金の出し手がいます。株式会社制度では、株主と言いましたが、持分会社制度では、社員といいます。ここでの社員とは、一般的な会社員を意味するわけではないことに注意してください。

持分会社は、合名会社、合資会社、合資会社の3つに分かれます。それぞれお金の出し手(社員)の立場が違います。合名会社は、家族経営がほとんどで出資者全員が無限責任社員です。合資会社は小規模の会社がほとんどで出資者は有限責任社員と無限責任社員がいます。合同会社は全員が有限責任社員で構成されており、株式会社に近い仕組みです。設立が容易なためベンチャー企業などに適しているとされています。

株式売買の仕組み

株式を売買するためには、証券会社の口座を作ることが必要です。野村証券や大和証券だけでなく、ネットを中心としたSBI証券、楽天証券などがあります。未成年の場合は保護者の同意が必要ですが、18歳以上であれば単独で証券口座を作ることができます。投資家は、この口座にお金を預けておき、株式を自由に選んで証券会社に注文し、証券会社が株式の売買を仲介することになります。証券会社のこのような仕事を委託売買業務と言います。証券会社は注文通り株式を購入することで手数料をとります。なぜ、このような仕組みがあるかというと、素人が証券市場で直接取引をすると、市場全体が混乱する可能性があるからです。証券会社は他にも株式や国債(国の借金証書)を買い取ってから投資家に販売する業務(引き受け業務)なども行っています。

株式での利益を得る方法は大きく二つです。一つは、インカムゲイン(配当)を得ることです。株主は、会社が利益を上げている場合には、出資額に応じて配当を得ることができます。多くの企業が年に二回の配当の権利確定日を設けています。権利確定日に株式を持っていると配当を得ることができます。ただし、権利確定日の翌日には株価が急激に下がる傾向にあるので、その点は気をつけるようにしてください。もう一つは、キャピタルゲインを得ることです。キャピタルゲインとは、株式を購入した時の株価と売却する時の株価の差で得る利益のことです。たとえば、ヤフー株を1997年に約150万円で購入して持ち続け、2000年以降に売却した場合には4億円以上のキャピタルゲインを得ることができました。

最後に気を付けるべきことを3つ紹介しておきます。一つ目は、株式売買利益には20%の税が課されるということです。100万円の利益を得た場合には20万円の税金が徴収されます。また、証券会社からも手数料をとられます。

二つ目に、インサイダー取引にも気をつけてください。インサイダー取引とは、内部情報を得た上で株式を購入することです。たとえば、家族が製薬会社に勤めていて、その会社が新薬開発に大成功したことを発表前に知ったとします。この情報はインサイダー情報です。インサイダー情報に基づいた取引は金融商品取引法で禁止されています。怪しい取引は証券取引等監視委員会に報告がなされます。インサイダー取引がばれた場合には、刑事罰が科されることもあります。

三つ目に、金融商品の特徴をよく考えて取引するようにしてください。たとえば、株式はハイリスク・ハイリターンだと言われております。金融の世界でいうリスクとは「不確実性」や「変動」を意味します。つまり、株式のハイリスクとは、株価の上昇と下降の幅が大きいことを意味します。そのようなハイリスクな資産は平均的な収益が大きくないと誰も買ってくれません。よって、ハイリスクにはハイリターンとなり、ローリスクにはローリターンとなります。誰もが、ローリスク・ハイリターンを目指したいと思いますが、そのような金融商品はそもそも存在しません。短期の株式売買はほぼギャンブルですので、将来騙されないようにしてください。

現代の企業の特徴

現代の企業の中でも特に、存在感を強めているのが、デジタルプラットフォームを提供する企業です。デジタルプラットフォームとは、ネット上でのショッピングモールや検索サービス、動画配信などのサービスのことを指します。Google、Amazonなどは検索サービスやショッピングモールを提供するデジタルプラットフォーマーと言われます。近年特に力を持っているのが、GAFAMと呼ばれる5つの企業群です。これは、Google、Amazon、FaceBook、Apple、Microsoftの頭文字をとったものです。これらの企業が独占状態であることから、各国で規制の在り方をどうするかが議論されています。

なぜ、デジタルプラットフォーマ―は独占状態になりやすいのでしょうか? その理由の一つが、ネットワーク外部性(ネットワーク効果)が働きやすいことが挙げられます。ネットワーク効果とは、利用者が増えるほど、その利用者の満足度が高まる現象のことです。たとえば、普段からGoogle検索を使っている人は多いと思います。Googleだと色々な情報が出て来るからだと思います。なぜ色々な情報が出て来るかと言うと、Googleに情報を載せたい企業がたくさんあるからです。そして、Googleにたくさん情報が載れば、その分だけ利用者が増え、利用者が増えれば、その分だけ情報を載せたい企業がさらに増えるという循環が起こります。この循環は簡単には止まりません。これがネットワーク外部性です。このようにして独占状態が生まれるのです。

では、なぜ私たちはGoogleやAmazonのサービスを無料で利用できるのでしょうか? これには大きく二つの理由があります。一つは、私たち消費者は無料でサービスを利用できる一方で、GoogleやAmazonに情報を載せたい企業は料金を支払っているからです。GoogleやAmazonは独占的地位を使えば、容易に企業からお金を取ることができる訳です。両面市場といいまして、GoogleやAmazonは、消費者と企業の両方を相手にできる市場を形成しているのです。

私たち消費者がサービスを無料で利用できるもう一つの理由は、GoogleやAmazonは消費者から得た情報を加工して企業に販売しているからです。ターゲッティング広告といって、企業は得られた個人情報をもとにAIの技術を活用してそれぞれの消費者にあわせて広告が出されるのです。中には、パーソナライズド・プライシングといって、人によって価格を変えるといったことも行われています。

デジタルプラットフォーマ―への規制

GAFAMと呼ばれる巨大IT企業に対しての各国の姿勢は年々厳しいものとなっています。理由は、止められない独占状態への懸念や個人情報の扱い方についての批判です。特に厳しい姿勢をとっているのが、EU諸国です。たとえばドイツでは、Facebookに対して消費者の同意なしにデータを得ること強要しているとして、データ収集制限命令を出しています。また、GDPR(EU一般データ保護規則)といって、EU各国が守らないといけない個人情報の法令には「忘れられる権利」というものが明記されています。忘れられる権利とは、企業などがもつ個人のデータは、要求に応じて消してもらえる権利のことです。また、伝統的に企業独占について寛容であったアメリカも近年では巨大IT企業に対して厳しい姿勢をとっています。たとえば、アメリカ政府がFaceBookに対してインスタグラムやワッツアップという会社を買収し、競争を阻害しているとして訴訟を起こしています。

日本でも同様な動きが見られるようになっています。2021年には、楽天が運営する「楽天市場」が出品する側の企業などに対して優越的地位を利用していたとして公正取引委員会が改善措置を求めたことがありました。また、デジタルプラットフォーム透明化法という法律が制定され、ヤフーや楽天などの指定されたデジタルプラットフォーム提供企業は、情報開示などの体制を整え、毎年自己評価を付した報告書を提出しなければならなくなりました。今後も生成AIに対する規制など政府と巨大IT企業の関係性には注目しておいてください。