政治や経済の世界だけでなく、司法の世界でも社会の状況に合わせ変化が起こっています。ここでは、司法分野における変化や改革について扱っていきたいと思います。
裁判員制度
まず、戦後大きな改革といえば、裁判員制度が導入されたことです。日本では戦前に1928年~1943年まで陪審員制度が行われていましたが、戦後は2009年の裁判員制度の導入まで、そのような国民の司法参加の仕組みは本格的にはなかったです。
中学校でも学んでいると思いますが、裁判員制度の対象となる事件は重大な刑事事件の第一審です。つまり、第二審以降は裁判官のみで判決を考えることになります。しかし、第一審で国民が声を反映されていると考えるため、第二審以降も裁判員裁判での判決は大きな影響をもつことにはなります。裁判員は事件ごとに選ばれます。裁判員として事件に関わるのは6名で、それ以外にも補欠として選ばれる人もいます。法律の専門家などは裁判員に選ばれることはありません。
裁判員裁判は大体一週間ほど行われます。昔の刑事裁判は本当に長かったのですが、公判前整理手続という制度ができてからかなり短縮されました。公判前整理手続とは、裁判前に裁判官・検察官・弁護士が争点を明確にして、証拠を絞り込む手続きです。これにより裁判員も自分の仕事を休んで短期間での話し合いで判決を考えることができるようになりました。
話し合いの中では、裁判官が裁判員に対して、過去の似たような事件でどのような判決を出しているかなどを示したりしながら、裁判員は、有罪か無罪か、有罪であるならばどのような量刑となるかを決めます。最終的な決定は多数決ですが、必ず裁判官から1名以上、裁判員から1名以上の賛成者がいないといけない特別多数決の仕組みとなっています。これまで裁判員裁判で死刑判決も出されています。また、裁判について話し合いの内容は裁判が終わってからも守秘義務があります。そういった点では、やはり精神的に負担は大きいようです。ただし、終わった人へのアンケートでは「やって良かった」と回答するが多いです。
外国ではどのような司法参加の仕組みがあるかについても解説しておきます。特にアメリカの陪審員制度とドイツの参審員制度について説明します。アメリカの陪審員制度は、州によって異なる点もありますが、一般的に事件ごとに無作為に選ばれた12名の陪審員が全会一致で有罪か無罪かを決めます。そして、有罪の場合には裁判官が量刑を決めます。また、ドイツの参審員の場合は、任期が5年で3人の裁判官と2名の参審員で事件について話し合いを行います。陪審員は有罪か無罪、有罪の場合には量刑も決める点では日本の裁判員制度と同じですが、参審員は、事件ごとではなく、任期があり、任期中は様々な裁判に関わるという点で大きく異なります。
検察審査会
日本では裁判員裁判以外にも国民の司法参加の機会があります。検察審査会制度です。これも裁判員同様に抽選で選ばれた国民が参加する制度です。11名の国民が選ばれます。任期は6か月です。皆さんも知っての通り、日本で犯罪を行ったであろう人を起訴できるのは検察官だけです。この検察官が「被疑者が身内だから起訴しないでおこう」というような発想で仕事をしていたら大変なことになります。そのため、検察官が不起訴とした事件のうち、被害者などが申し立てをした事件については、検察審査会で審査が行われます。この審査会で同一の事件について2度「起訴するべき」という決定がなされた場合には「強制起訴」がなされます。これまで検察官が起訴してこなかったことを踏まえて、このような強制起訴は裁判所が指定する弁護士によって行われます。ただし、検察官が起訴しない事件のほとんどは、検察官が有罪にするのが難しいと考える事件です。よって、強制起訴後に無罪となる例も多いです。
司法制度改革
①法科大学院と法曹人口の拡大
2000年以降から、法が国民により身近になるように改革が行われてきました。まず、法曹人口の拡大です。これまで日本はアメリカなどと比べると法曹人口が少なく弁護士などのアドバイスを簡単に受けることができませんでした。この点を問題として、法曹人口を増やすための取り組みが行われてきました。法科大学の設置がその一つです。法科大学院の学生は、法学部出身者は2年、法学部以外の出身者は3年間法律の専門的な学習を行い、司法試験合格を目指します。このような法科大学院はお金や時間がかかること、多くの大学が法科大学院を設置したがり法科大学院の乱立がみられたことで、あまり評判はよくありませんでした。さらに、予備試験という制度があって、法科大学院で学ばなくても、予備試験にさえ合格すれば、すぐに司法試験を受けることができるという仕組みもあります。そのため、優秀な学生は法科大学院ではなく、予備試験から司法試験合格を目指すという事態となっています。
このようにして法曹人口(特に弁護士)が増えたのですが、次に問題となったのが彼らの就職先です。これまで、司法試験合格者は特権階級ともいえるほどの地位を得ることができたのですが、合格者が増えるにつれて就職先が見つからない人や低収入で法科大学院時代の学費の返済に苦労する人なども出てくるようになってしまいました。法曹人口については増やしすぎたという反省もあるのか、今後は減らしていくようです。
②国民の法へのアクセス
法曹人口の拡大によるメリットは国民が法律相談を行いやすくなったことです。例えば、法テラスという施設ができました。大阪には法テラスが淀屋橋にある大阪弁護士会館と堺東駅前の2か所あります。弁護士さんが常駐しており、所得によっては無料で法律相談にのってくれます。名前の由来は「法で世の中を照らす」です。
また、お金のない人が国選弁護人をつけやすくなりました。これまでは、お金のない人が無料で弁護してもらえる国選弁護人は「起訴されて被告人になってから」などの条件がありました。現在では、逮捕されてから拘留された場合には被疑者段階でも国選弁護人を依頼することができるようになりました。もしも、将来拘留されてしまった場合には、取調官に「当番弁護士を呼んでください。」と依頼すれば弁護士さんが来てくれます。
他にもADRという仕組みを推進していこうとなっています。これは、「裁判外紛争手続」と言います。一般的に、裁判はお金もかかるし時間もかかります。すると、せっかく法的に解決できそうな問題でも、ずっと我慢する人がいたり、揉めたままの状態が続いてしまいや少なります。そのため、弁護士さんなどの法律の専門家が中立な立場で間に入ってもらって、仲裁案を出してもらうことができるのです。この仕組みであれば、裁判よりも費用が安く簡単に紛争解決に向かいやすいです。もちろん、おの制度を使っても納得がいかない場合には、裁判所に訴えることは可能です。日本では、最後のジャッジは必ず裁判所がすることになっています。
そのほかにも労働審判制度というものもあります。労働分野で学習したと思いますが、労働組合と使用者がもめた場合には、労働委員会が間に入り、斡旋・調停・仲裁などによる解決を行ってくれます。ただし、対象は基本的には組合と使用者間の争いです。つまり、労働組合に入れない人やそもそも会社に組合がない人は労働委員会の働きに期待できません。かといって、裁判は時間もお金もかかります。そこでできた仕組みが「労働審判制度」です。労働審判制度は1人の労働審判官(裁判官)と2人の労働問題を専門とする労働審判員が労働者と使用者の対立を調整する仕組みです。労働審判は大体3回以内に終わるため裁判よりも短期間で対立が解決すると言われています。ただし、審判の結果が気に入らない場合には、裁判所に訴えて労働裁判を行うことができます。繰り返しになりますが、日本では最終ジャッジは裁判所に残しておかないといけないのです。
③刑事裁判の変化
裁判員裁判以外にも刑事裁判の仕組みはどんどん変化しています。傾向としては、犯罪被害者にはより手厚い保護、そして犯罪者にはより厳しい措置をとるようになっています。たとえば、2000年には犯罪被害者がテレビモニターを介した証言をできるようになりました。また、2007年には犯罪被害者が検察官とともに被告人に質問をしたり量刑について意見を述べることができるようになりました。他方で、犯罪者に対しては厳罰傾向で殺人などの重大な事件については時効がなくなりました。逃げ得は許さないということです。その他の変化として、
その他にも大きな変化が二つありました。一つは2018年から司法取引の導入です。司法取引とは、被疑者や被告人が検察官に協力することで刑事処分について有利な取り扱いを受ける制度です。全ての事件が対象ではないですが、かなり広範に司法取引を行うことができます。もう一つは、2019年から裁判員裁判や検察の独自捜査事件では取り調べのすべての過程で録音と録画が義務付けられたことです。いわゆる「取調べの可視化」というやつです。このように司法の世界もどんどん変化していっています。