労働者の権利

2019年より制定された「働き方改革関連法」の影響や、コロナウイルス感染拡大によるテレワークの拡大など、近年では働き方が大きく変化しています。ここでは、なぜ労働に関する法律があるのか、その具体的な内容について解説しておきます。

契約自由の原則の修正

多くの人が将来、労働者として会社に勤め働くことになると思います。社長と労働者の関係は法的にどうなっているのかを説明します。社長は労働者を働かせることができますが、その代わりに給料を払う義務が発生します。労働者は働くという義務を負いますが、その代わりに給料がもらえます。この関係は、両者の意思による契約によって生まれます。契約というと、紙の契約書にサインする状況を思い浮かべる人もいるかと思います。しかし、契約はそんなに仰々しいものではありません。皆さんも日常的に契約をしています。

たとえば、コンビニでアイスを買う、これは契約です。皆さんは「お金を支払うからアイスをもらいたい」という意思をもってレジに並び、店員さんは「アイスを渡すからお金をもらいたい」という意思をもって皆さんへ接客します。このように両者の意思が合致すれば契約は成立します。契約は原則として、国家が介入することなく、皆が自由に結ぶことができます。嫌であれば契約を結ばなければよいだけの話しだからです。これを契約自由の原則といいます。一度結んだ契約は取り消すことは原則できません。皆さんがコンビニでアイスを買ってから返品をお願いしても、コンビニは応じてくれませんよ。

ただし、契約自由の原則には、いくつか例外があるので紹介します。まず、18歳未満の未成年者がした契約は保護者の同意がなければ取り消すことができます。たとえば、皆さんが数十万円もする自転車を保護者の同意なく購入した場合には、返品すれば、すぐにお金を返してもらえます。皆さんは半人前なので、法的にえこひいきしてもらえるのです。ただし、未成年でもお小遣いの範囲内での契約は自由にできます。その代わり取り消すことはできませんので注意してください。なお、自分が成人であると偽った未成年者は、このような保護を受けることはできません。そんな奴は保護に値しないと法律は考えるからです。また、公序良俗に反するような契約は無効となります。たとえば、「1億円あげるから奴隷になってください」といった契約は相手方が受け入れたとしても無効となります。

他にも契約自由の原則のままでいくと不利な立場に立たされる人を保護することもあります。たとえば、皆さんの良く知っているクーリング・オフという仕組みです。これは商品についての情報を知ることができない消費者を守るために、いったん結んだ契約の取り消しを認める制度です。特定商取引法という法律に記されています。つまり、契約自由の原則を修正しているのです。そして、今回の労働分野の学習の主役である労働者も保護される立場です。なぜなら、社長と労働者では、社長の方が力が強いので、契約を両者の自由に任せておくと社長にばかり有利なものとなってしまうからです。このような理屈から、労働基準法や最低賃金法が存在すると考えてください。

労働法

戦後、GHQの統治下に日本が置かれてから、労働者の権利が現在のように確立されることになりました。まず、1945年に労働組合法ができます。労働組合とは、労働者が主体となって、労働条件の改善や維持を目指す団体です。2人以上の労働者が結成を決めればつくることができます。結成するのに、行政からの認可などは必要がありません。ただし、憲法や法律から保護してもらうためには、労働組合としての条件を満たす必要があります。労働委員会が、資格を満たしているかどうかチェックします。

労働組合は使用者側(社長)と交渉し、契約を結ぶことができます。このような労働組合と使用者で結ばれる契約を労働協約といいます。これは個別の労働者が社長と結ぶよりも、労働者側に有利な内容となります。なぜなら、労働組合の方が個別の労働者よりも強い力をもっており、個別の労働契約よりも労働協約の方が労働者側に有利だからです。労働者側を守ろうというのが労働政策の原則となります。このような流れから、労働におけるルールは多層的でして、その優先順は、

憲法>法律>労働協約>就業規則(労働時間、休日など)>個別の労働契約  となります。

たとえば、憲法には勤労権が示されており、それを保障するために公共職業安定所(ハローワーク)が設置されています。堺だと市役所の横にあります。憲法には、職業選択の自由も記されていて何人も自由に職を選ぶ権利があります。また、法律については、最低賃金法というものがあり、物価などをもとに原則として都道府県ごとに最低賃金が定められています。このようなルールは、労働協約や労働契約よりも上位の法的拘束力があり、労働組合や企業側の双方がいくら合意しても覆すことはできません。

労働組合には様々な形態があります。日本の労働組合の特徴は、多くが企業別組合であることです。トヨタにはトヨタの社員で構成された組合があり、ホンダにはホンダの社員で構成された組合があります。他方で、ヨーロッパでは産業別組合、職業別組合などが一般的です。企業別組合と産業別組合ではどちらの方が、労働者と企業側が対立しやすいでしょうか?どちらかというと、日本型の企業別組合の方が労働者と企業側が対立しにくいとされています。なぜなら、同じ会社の人間同士の交渉なので、労働者側も、あまり過激に運動しすぎて会社の経営が悪化してしまうと本末転倒であると考えます。また、企業側も同じ会社の人間をあまりにも冷遇することはできません。このような企業別組合による労使協調が戦後日本の労働環境の特徴でした。しかし、2000年以降は非正規雇用の割合が上昇し、組合に入りたくても入れない人も出てきたこともあり、組合組織率も低下していきます。名ばかり店長といって、実態は店員の仕事をしているのに、管理職扱いされて組合に入れないファーストフード店の店長というのも問題視されました。そのような人達のために、地域労組といって一人でも誰でも入れる労働組合もありますので、その存在を知っておいてください。

労働組合法には、企業側(使用者側)がしてはいけないことが列記されています。次の発言のうち、使用者側がしてはいけないことはどれでしょうか?

・「労働組合を作るなら解雇するぞ」     
・「労働組合に援助してあげよう」
・「組合に入らないなら雇ってあげよう」
・「団体交渉には応じない」

これらは全て使用者側による不当労働行為として禁止されています。不当労働行為が行われた場合、労働組合は労働委員会という組織に救済を申し出ることができます。労働委員会とは、行政委員会の一つで、使用者委員、労働者委員、公益委員の三者で構成されます。たとえば、大阪府労働委員会は、使用者委員に京阪電鉄の取締役、労働者委員に大阪市の労働組合の顧問、公益委員に弁護士などのメンバーで構成されています。この労働委員会が労働組合と会社側の対立を調整します。

労働関係調整法(1946年)には、具体的に労働委員会による労使対立の調整として、斡旋、調停、仲裁について記されています。斡旋とは、話し合いのことを指し、労働委員会が労働組合と会社双方から話を聞き、解決案を提案してくれたりします。この斡旋が最もよく利用されます。それでも双方納得いかない場合には、労働委員会は調停案を出し双方に受け入れるように勧告することができます。それでもうまくいかない場合には、労働委員会は仲裁裁定を下します。これを下された場合、労働協約と同一の効果があります。つまり、仲裁は、労働組合と企業側の双方が法的に守らないといけないことなります。ただし、このような労働委員会による調整は最終的なジャッジではありません。日本で最終的なジャッジができるのは裁判所だけです。そのため、決定に不服がある場合には裁判所に訴える道が残されています。

労働基準法(1947年)は、皆さんにとって最も身近な労働法でしょう。以下、クイズを出しておきます。

・1日に働いて良い労働時間とは?
・残業はいくらもらえるのか?
・制服に着替える時間については、給料がもらえるのか?
・賃金アルバイトでも有給休暇はもらえるのか?

1日は8時間以内の勤務、週では40時間ですね。皆さんが結構よく間違うのが、週休1日制です。建設業や私立学校の先生なんかは週休1日の所が多いです。残業については、原則禁止なのですが、36条に労働組合や労働者の過半数が書面で協定を結んだ場合には可能となります。通常の1.25倍以上は与える必要があります。ただし、企業は従業員を無限に残業させられるわけではありません。上限以上に残業させた場合には罰則があります。2019年からは月45時間、年間360時間を超える残業を従業員が行った場合、労務管理責任者は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになりました。また、有給休暇取得についても罰則が設けられました。年間最低でも5日間は取得させることが義務付けられており罰則が設けられています。有給休暇については、正社員じゃなくても、一定の条件を満たせばもらえます。その他、選挙の投票のために職場を抜けてもいいこと、男女同一賃金、賃金支払いは原則通貨であること(2023年より本人が同意したらペイペイなどのデジタルマネー払いは可)などが記されています。労働基準監督署は、企業が労働基準法違反を行っていないかだけでなく、過労死の認定なども行います。大阪の労働基準監督署は大阪城公園の近くにあります。以上は、入試やテストに関係なく、人生で必要な知識ですので必ず理解しておいてください。