現代の日本の労働問題

日本には様々な労働問題があります。正規雇用と非正規雇用との待遇格差、障がい者差別、女性労働者差別などです。他方で人材不足ということもあり、多様で柔軟な働き方を認めるように法改正が行われています。現在の日本の労働環境について解説していきます。

非正規雇用

日本は戦後復興から高度経済成長を果たしました。これらを支えたのが日本型雇用慣行とされています。日本型雇用慣行とは、年功序列終身雇用企業別組合の三つです。企業別組合は現在も残っていますが、そもそも組合に入る人が減りました。年功序列と終身雇用については、非正規雇用労働者が2000年頃から増加することで、かなり崩壊してきています。また、年功序列型賃金ではなく、仕事の成果に応じて賃金が決まる成果主義を導入する企業も増えています。

非正規雇用労働者の中でも、派遣労働者は2000年以降特に増加しました。理由は、2003年に小泉内閣のもとで労働者派遣法を改正し製造業についても派遣労働を行うことが可能としたからです。派遣労働者は、自分が所属する派遣会社で働くのではなく、その派遣会社と契約している企業で働くことになります。給料は働いている企業からではなく、派遣会社から出されますことになります。

この派遣労働という形態は、労働者側には不利なものです。企業は景気が悪くなったり業績が落ち込んだ場合、労働者の派遣を簡単に断ることができるからです。これは正社員を辞めさせるのに比べると圧倒的に簡単です。日本では、労働契約法という法律で、理由なき解雇は無効としており、懲戒解雇(社員が犯罪などを犯した場合)、普通解雇(無断欠勤が続くなど)、整理解雇(経営難など)といった場合でないと社員の解雇は認められません。このように派遣労働は、労働者に不利なので通訳などの一定の専門職でしか適用されませんでした。そんな中、先ほど説明したように、小泉内閣の下で、派遣労働の範囲を製造業まで解禁しました。2007年にリーマンショックが起こると不況が訪れ、2008年には大量の派遣労働者が職と家を失うことになりました。社員寮で暮らす派遣労働者も多かったのです。本格的な格差社会とも言われるようになりました。

非正規雇用についてはパートタイム・有期雇用労働法という法律によって、同じ労働であれば、同じ賃金を払うこと(同一労働同一賃金の義務化)や労働契約法で一定の有期契約の後には労働期間の定めのない無期労働契約を申し込む権利が発生することなどが明記されています。しかし、実際には「パートの人と正社員は責任が違う」と言って同一賃金同一労働を否定したり、有期雇用の人が無期雇用者になる「申し込み権」が発生する前に雇止めしたりする職場は実態としてはたくさんあります。

女性労働

次に女性の労働問題について扱います。男性と女性の賃金格差は男性を100とした場合に女性は73.3(2019年)とされています。この理由の一つは、女性の方が非正規雇用労働者が多いことが挙げられます。1970年代の女性の年齢別労働力率(M字型就労)をみると、日本の女性は20代後半から30代後半にかけて労働力率が低下します。これは結婚や子育てによって仕事を辞めて、その後にパートとして仕事に復帰するためにこのようなM字になっていると言われていました。現在はM字型は改善されていますが、女性労働者の半分近くが非正規雇用であることからも日本は女性労働者が働きやすい国とは言えないでしょう。実際、ジェンダーギャップ指数という国連開発計画(UNDP)が出している指標では、日本の数値は低く先進国では最低、世界全体でも120位となっています。

女性労働問題については改善しようとする動き自体はあります。例えば、育児・介護休業法という法律で育児や介護のために休業する人に対して不利な状況を作ってはいけないことや、育休に入っている期間は雇用保険から賃金の50%程度の額が支給されることなどが定められています。また、2023年からは男性の育休取得率の公表が義務づけられました。女子差別撤廃条約を結ぶにあたって制定された男女雇用機会均等法(1985年)では定年や退職などについて男女問わず差別的扱いは禁止となりました。セクハラやマタハラについては防止措置をとることが企業に求められ、厚生労働省の是正勧告に従わない事業主は実名公表されます。身長などを要件に採用を決めるといった結果的に女性差別(間接差別)になるようなことも禁止されています。また、ポジティブ・アクション(アファーマティブ・アクション)といって女性などの差別されてきた側に対して優遇措置をとることは禁止されていません。たとえば、採用時に同じ評価であれば、女性を優先して採用すると言った措置は男性差別とはなりません。

外国では、女性が働きやすい環境となるような取り組みを日本以上に進めています。たとえば、フランスではパリテ法というものがあり、政党が選挙の候補者を出す場合には男女同数にすることが法的に義務づけられています。日本でも2018年に候補者男女均等法という法律がありますが、これは努力義務でしかありません。ノルウェーでは、企業の取締役の男女比が一定するになるように法的に義務づけられています。日本は東京証券取引所が、プライム市場に上場している大企業に対して2030年までに取締役の30%を女性にするように要請しています。現時点では日本企業の女性役員比率は世界最低水準となっています。そのため、政治家や企業の役員に一定の女性枠を与えるやり方を導入することが議論されています。このような割当制をクオータ制といいます。

様々な立場からの労働問題

その他の労働問題をいくつか解説します。まずは、外国人労働者に関する問題です。原則として、外国人は、単純労働を理由に日本に滞在することはできません。例外として一定の条件を満たす日系人だけは単純労働を行うことができます。ただし、日本は2011年以降人口減社会となっており、労働分野での人手不足が続いています。そのため、外国人を受け入れたい会社は多いのです。1993年には途上国の支援を名目に外国人技能実習制度というものができました。外国人は実習生としてならば5年間日本で働けるのです。この制度を悪用して、企業が外国人を禁止されている単純労働に従事させる例もあります。さらに、2019年には「特定技能」という資格ができ、外国人が事実上永住できる道も開かれています。技能実習生制度は人権上問題もあるとされており、政府の有識者会議では廃止するべきとの報告書が出ています。

次に障がい者雇用の問題です。日本には障害者雇用促進法という法律がありまして、すべての企業や行政機関が法定雇用率(2021年に2.3%)以上の障がい者を雇用することが義務づけられています。法定雇用率を達成している企業は補助金が得ることができ、逆に未達成の企業はお金を支払わないといけません。多くの企業が未達成です。さらに、2018年には国や地方自治体が、障がい者雇用の水増しをしていたことが大問題となりました。国は、2019年から障がい者に限定した採用試験を行うようになりました。

高年齢者の雇用についても解説しておきます。皆さんも知っての通り、日本は世界一の少子高齢化の国です。65歳以上の割合は29.1%(2023年)です。そのため、元気な高齢者には働いてもらい、働いている間は年金をできるだけ受給しないでもらいたいと国は考えます。そこで、年金受給年齢は段階的に引き上げられ、65歳にならないと老齢年金はもらえなくなりました。さらに、2013年に高年齢者雇用促進法が改正され、65歳までの定年引上げや65歳までの雇用継続が義務化されました。学校の先生の中でも、60歳以上で再任用という立場で働いている人はたくさんいます。この法律は、2021年に再び改正され、70歳までの就労機会の確保が努力義務となりました。

様々な働き方

コロナウイルス感染拡大もあり、ICT技術を活用した様々な働き方が2020年以降増えてきました。テレワークという言葉が一般的なものとなりました。自宅のPCを使った働き方ですね。他にも、ギグワークといって、インターネットを通じて単発の仕事を獲得して働くという方法も一般的なものとなりました。ウーバーと書いたかばんを背負って自転車で移動している人を見たことある人も多いでしょう。フリーランスといって、誰にも雇われずに仕事を請け負って働く人を守るために2023年には、フリーランス保護新法という法律もできました。この法律では、立場の弱いフリーランスを企業から守るために、契約内容を明示しないといけないことなどが記されました。柔軟な働き方にい関連して以下のようなものがあります。

働き方など内容
変形労働時間制   忙しい週は1日8時間以上働き、忙しくない週は労働時間を減らすことができる制度。企業側が時間を設定するもので、残業代も支払う必要がある。似たものとして、フレックスタイム制もがあるが、こちらは労働者側柔軟に働く時間をコントロールする。
裁量労働制実際に働いた時間ではなく、決められた時間働いたとみなす制度。残業代がつくこともない。デザイナーやコンサルタントなどに適用される。似たものとして、高度プロフェッショナル制度があるが、こちらは、1075万円以上の研究開発職などにだけ適用されるもので、深夜や休日の仕事にも手当がつかない。
メンバーシップ型雇用・ジョブ型雇用メンバーシップ型雇用とは、入社時に職種を限定しないで異動などを通じて雇用していくやり方。従来型の日本型雇用によくみられる。一方で、ジョブ型雇用は、職務内容を限定して専門職として雇用していくやり方。
ワークシェアリング従業員一人当たりの労働時間を短縮してより多くの人を雇用するやりかた。

働き方が柔軟になる中で、ワークライフバランスを実現しようとする動きは加速しています。「ディーセントワーク」といいまして、働きがいのある人間らしい仕事に多くの人がつける社会であることがどんどん求められている時代だといえるでしょう。皆さんの多くは、そう遠くないうちに働くことになると思います。自分はどのような環境で働きたいかイメージしておいてください。