為替レートの動き方について(練習問題付)

金融

ここでは為替レートについて大きく2つのことを解説します。一つは、為替レートがどのような要因で変化するかです。もう一つは為替レートの変化が経済にどのような影響を与えるかについてです。

為替レートとは

為替レートとは、通貨同士の交換レートのことを指します。たとえば、1ドル=100円の場合には、日本人が100円払えば1ドルを得ることができる状況です。この為替レートは刻々と変化していきます。理由は需要と供給によるものです。たとえば、多くの日本人が1ドルを欲しいと思った場合、1ドルを巡って多くの日本人同士が競争することになります。1ドルを100円で手に入れたいと思う人もいれば、110円払ってでも手に入れたい人、中には本当に緊急にドルが必要で150円払ってでも手に入れたい人もいるかもしれません。つまり、みんなに欲しいと思われる通貨の価値は上がっていくのです。1ドル=100円が1ドル=110円、そして1ドル=150円へと変化していくのはそのような理由です。この例の場合には、ドルの価値が円の価値と比べて上がっているので「ドル高円安」と表現します。

為替変動の要因① 貿易による需要と供給の変化

貿易黒字の国の通貨価値は高くなりやすいです。たとえば、日本が製品をアメリカに対して輸出した場合を考えてみましょう。国際的な取引は基本的にドルで行われます。よって、この場合には日本側はドルを受けとることになります。しかし、日本企業としては日本国内ではドルを使うことができない。そのため、ドルを円に交換したいと考えます。円が欲しい。つまり、円の需要が増します。よって、円高ドル安になるのです。

為替変動の要因② 金利差による需要と供給の変化

金利の高い国の通貨価値は高くなりやすいです。たとえば、日本の金利がずっとほぼ0%であるのに対して、アメリカの金利が1か月で2%ずつ上昇する場合を考えてみましょう。金利とはお金の貸し借りの際に生じるレンタル料みたいなものです。お金を銀行から借りたらレンタル料を払わないといけませんが、お金を銀行に預けたら逆にレンタル料を貰えます。この場合、アメリカの銀行ではお金を預けたら多くの利息を貰えるのに対して、日本の銀行にお金を預けてもほとんど利息がつきません。この場合、為替レートが動かなかったどうなるでしょうか?円をドルに換えてからアメリカの銀行にお金を預けたいと考える人が増えると思いませんか。すると、円をドルに換えたい、つまりドルの需要が増えることになります。よって、円安ドル高になるのです。このような為替レートの変動は、金利差で儲けることができなくなるまで続きます。コロナ後に円安である理由は、各国が金利を上げる中で日本は金利を上げないためためとこの理論で説明できます。

為替変動の要因③ 物価による需要と供給の変化

物価が上昇する国の通貨価値は下落しやすいです。たとえば、1ドル=100円の状況で、全く同じハンバーガーが日本で100円、アメリカで1ドルで売られている場合を考えましょう。ここで、アメリカの物価が上昇し、アメリカのハンバーガーだけ2ドルになってしまったと仮定しましょう。この場合、アメリカ人はドルを円に交換してハンバーガーを得ようと考えます。円が欲しい、つまり円への需要の高まりです。よって、円高ドル安になっていきます。長期的に見た場合、為替レートは物価の変動に最も影響を受けるとされています。このような考え方を購買力平価説といいます。

練習問題1
次の①~④のうち最も適当なものを一つ選べ。
①イギリスの対アメリカ輸出が増加すると、ドル高ポンド安となる。
②韓国の対イギリス輸出が減少すると、ウォン高ポンド安となる。
③アメリカの金利が上昇し、韓国の金利が変わらない場合、ドル安ウォン高となる。
④イギリスの物価が2倍となり、アメリカの物価が3倍になった場合、ポンド高ドル安となる。

正解は④となります。物価が上がった国の通貨価値は下がると説明しました。④の場合は相対的にアメリカの物価の方が上がっていますので、ドル安となります。

①誤り。輸出が多い国ほど通貨価値が上がりやすいと説明しました。イギリスの対アメリカ輸出が増加するとポンド高となります。②誤り。韓国の対イギリス輸出が減少するとウォン安となります。③誤り。金利が上昇するほど通貨価値が上がりやすいと説明しました。アメリカの金利が上昇したならば、ドル高になります。その他、その国の失業率、GDPなどのファンダメンタルズ(基礎的事項)でも為替レートは動きますが、現在では金利と物価が為替レートの調整の大きな要因となります。

為替レートの経済への影響

次に為替レートの経済への影響について解説します。簡単にいうと、自国通貨安の場合には輸出が有利で、逆に輸入が不利となります。円安ドル高が日本の輸出になぜ有利なのか2つの説明します。

たとえば、1ドル=360円の場合と1ドル=120円の場合を考えましょう。

説明1 360万円の車を売る場合

1ドル=360円の場合には、1万ドルで車を販売することになります。一方で、1ドル=120円の場合には、3万ドルで車を販売することになります。ここで忘れてはならないのは、日本人にとっては、どちらで売っても売り上げは360万円です。この場合、どちらの状況の方が車が売りやすいでしょうか?1万ドルと3万ドルだと、もちろん1万ドルの方が外国人は買いやすいです。よって、1ドル=360円の方が有利であるという説明ができると思います。

説明2 1万ドルで車を売る場合

1ドル=360円の場合には、1万ドルで車を販売すれば、360万円の売り上げとなります。一方で、1ドル=120円の場合には、120万円の売り上げとなります。よって、1ドル=360円の方が有利となります。これらの説明、どちらも間違っていませんが、現実には説明2のように売値が固定された状況で、企業側の売上がどのように変化が起きるかを見るのが一般的かと思います。

練習問題2
次の①~④のうち最も適当なものを一つ選べ。
①ドル高ウォン安になると、アメリカの韓国からの輸入品のドル建て価格は下落する。
②ウォン安ポンド高になると、イギリスの韓国からの輸入品のポンド建て価格は上昇する。
③円安が進むと外国人観光客が経済的なメリットが減り来日しにくくなる。
④円高が進むと日本企業は海外の生産拠点を国内に移そうとする。

正解は①です。ドル高になるとアメリカは海外のモノを買いやすくなります。なぜなら、外国の製品のドル表示価格が下がるからです。ドル表示価格をドル建て価格といいます。円表示なら円建てです。②誤り。ポンド高なのでイギリス国内の外国製品のポンド建て価格は低下するはずです。③誤り。円安が進むと外国人観光客は日本に来てモノが買いやすくなるはずです。④誤り。円高が進むと、日本企業は生産拠点を国内から海外へ移そうとします。外国の土地や建物が買いやすくなりますので。

以上、為替レートの変動要因と経済への影響について解説してきました。次にゲームをしておきましょう。

為替ゲーム

ゲーム あなたは、為替ディーラーです。4回のチャンスがあります。手持ちの1,000万円をできるだけ増やしてください。
第1回目
「アメリカは財政赤字で状況となり、ヨーロッパも再びギリシャが財政のデータを改ざんしていたことが明らかになりました。現時点では1ドル=100円です。ドルを買いますか?」
第2回目
「日本の円安は経済に悪影響ということで、財務大臣が日本銀行に命じて為替介入を行うという情報を手に入れました。現時点では1ドル=100円です。ドルを買いますか?」
第3回目
「外国からの輸入していた石油の価格が4倍になったために、日本国内の生活必需品の価格が急騰しそうです。現時点では1ドル=100円です。ドルを買いますか?」
第4回目
「アメリカのFRB(アメリカの中央銀行)がアメリカ国内の金利を1%から10%へ引き上げるという情報を得ました。現時点では1ドル=100円です。ドルを買いますか?」

このゲームは円安になると予想する場合にだけドルを買えば儲けることができますよね。第3回、第4回の時に1,000万円を全てドルに換える選択はできたでしょうか?

最後に、これまでの為替の説明はあくまで理論でしかありません。実際の経済はより複雑な動きをします。しかし、理論を学ぶことに意味がないわけではありません。理論を学べば、現実と理論のギャップに気付くことができ、より深く社会現象を理解することにつながります。