(1)市場とは
経済分野では、市場とは「いちば」と読まずに「しじょう」と読みます。経済分野でいうところの市場とは買い手と売り手が出会う場のことを指します。特定の目に見える場所だけなら、卸売市場黒門市場などは「いちば」と読めばいいのですが、為替市場や株式市場などは目に見えません。この目に見えない売り手と買い手が出会う場も含める場合には、市場といいます。市場では、価格が需要と供給を調整し資源が効率的に配分されると考えます。これを市場メカニズムといいます。この説明も難しいと思いますので例を出したいと思います。本当に欲しい人のところに必要なものが行き着くのはどれかという問題です。
事例 時価7000万円の住宅をもつAさん。どうしてもすぐに資金が必要になって5000万円で家を誰かに売ることにした。この家は次のうち、誰のものにするのが良いか? 1番 早いものが勝ち 2番 くじ引き 3番 その住宅の地域のことをどれだけ知っているかテスト 4番 5000万円以上を入札額とするオークション |
1番「早いもの勝ち」はiPhoneの新作なんかでよく行列に並んでいる人がいますよね。朝早く起きて並ぶくらいだから、その製品を欲しい気持ちは強いのでしょう。そういう意味では、本当に必要なところに必要なものが行き渡ると言えそうです。一方で、毎日忙しいサラリーマンよりも学生や無職の人の方がこの仕組みでは有利です。悪い言い方をすると暇な人に有利な仕組みになっているとも言えます。
2番「くじびき」はアイドルのコンサートチケットの抽選なんかが代表的ですね。誰でも同じ条件で決まるという意味では公平で良いと考えられます。ただし、これは運の要素が大きいですね。運の良い人が有利な仕組みですね。それほどアイドルに興味がないけれども抽選に参加しようという人も出てきそうです。
3番「テスト」で決める仕組みは大学入試が代表的ですね。本当にその商品やサービスが欲しいなら必死で勉強するだろう、だから必要な人のところに必要なものが行き渡ると考えることができそうです。しかし、これも勉強の得意な人、勉強をする時間のある人に有利な仕組みともいえます。
4番「オークション」には色々な方法があります。一番オーソドックスなのは、売り手側が買い手側に買入れ可能額を提示させていき、一番高い価格を提示した人がその商品を手に入れるというものです。お金は、原則としてあらゆる商品と交換可能(貨幣の交換機能)です。つまり、より高いお金を提示できるということは、その商品を手に入れるためならば、他のものを購入することと諦めることができる(つまり、機会費用が高い)ということを意味します。これは、本当に欲しい人のところに必要なものが行き渡ると考えやすいのではないかと思います。さらに、売り手は、たくさんのお金を貰える可能性があります。そのため、価格を通じて取引がすすむ仕組みは、売り手買い手双方にメリットがあります。効率性を考えればこのような価格による売買は優れた仕組みであるといえます。ただし、お金持ちとお金のない人での公平感が産まれてしまう点などでデメリットは残ります。
以上の例からも、どの決め方にもメリットとデメリットがあります。どれが一番正しいというものではありません。しかし、効率性を考えると4番のオークションが重視される傾向にあります。さらに、お金は数値化可能であり、売り手と買い手の満足度を分かりやく示すことができて便利です。普段のコンビニなどでの買い物にオークションが実施されているわけではありません。しかし、取引する際に価格が仲介される仕組みの背景には、そのような考え方があると感覚で理解してもらえたらと思います。
(2)需要の法則
需要と供給については、中学校でも習ったと思いますが、復習しておきます。このグラフは需要の法則を示したものです。ポイントは縦軸はP(Price)、横軸がQ(Quantity)であることです。価格が下がるほどに、数量が増えています。大学の経済学部の授業では曲線、経営学部は直線で教えられることが多いです。たまに「なぜ、直線でなくて曲線なのか?」という質問を受けることがありますが、それは経済学部のミクロ経済学の授業で学ぶことなのでここでは割愛します。需要曲線とは「買いたい側の気持ち」を表したものであると考えればよいかと思います。このような形は、人々の所得と満足度によって決まります。
需要曲線の価格弾力性についても解説しておきます。これも高校生が間違うところです。下図のD1とD2ではどちらが「生活必需品」、「ぜいたく品」でしょうか?ヒントは、トイレットペーパーのような生活必需品は価格が変化したとしても、大きく需要量は増えません。他方で、ぜいたく品の方は需要量が大きく変化します。ここでも縦軸はP、横軸はQであることを意識してください。縦軸の変化率に対して、横軸の変化率がどのようになっているかを意識してください。
以下の図からもD1の方が価格に対して需要量の変化が大きいですね。よって、D1がぜいたく品、D2が生活必需品の需要曲線です。価格の変化に対する需要量の変化のことを価格弾力性といいます。D1の方が価格弾力性が高く、D2の方が価格弾力性が低いと表現します。
(3)供給の法則
次に供給のグラフです。こちらは、先ほどの需要のグラフ以上に経済学的には説明が難しいので厳密性にはこだわらないでください。高校レベルでは供給曲線は「売りたい側の気持ち」を示したものであると考えてください。供給曲線はその商品を生産するための費用に関わるものであると考えます。生産にかかる費用が高いものほど、利益を出すためにたくさん売る必要があると考えればよいかと思います。価格弾力性については需要曲線と同じような考え方なので割愛します。
(4)需要と供給の法則
次に需要曲線と供給曲線について説明します。
まず、大変重要な説明をします。このグラフを数学のように見ないでもらいたいということです。数学の場合には横軸から縦軸を見ると思います。たとえば、Y=3Xというグラフの場合には、Xが2の時にYは6となるといった見方です。しかし、ここでは、逆の見方をしてください。つまり、縦軸のPから横軸のQが決まるという考え方です。
たとえば、P1の時には供給量はQ3となります。また、P1の時には需要量はQ2となります。縦軸から横線を引っ張って、需要曲線・供給曲線にぶつかるところで下側へ進み、数量が決まるという感覚をもってください。つまり、P1のところでは、(Q3-Q2)の売れ残り(超過供給)が生じていることが分かります。P1という高い価格では買い手はあまり買いたがらず、売り手は売りたがるということです。また、P2の時には供給量はQ1、需要量はQ4となります。ここでは先ほどとは逆にQ4-Q1の品不足(超過需要)が起きています。
P1の売れ残りが生じている場合には、価格は自然と下がっていきます。これは直感で皆さん分かると思います。夕方にスーパーでお惣菜を買いに行ったら割引されている状況を思い浮かべたらよいと思います。逆にP2の品不足が生じている場合には価格は自然と上がっていきます。欲しい人がたくさんいると価格が上昇するという点についても直感的理解で構わないと思います。このような価格の調整が起こり、最終的に到達するのがP0です。この時の価格のことを均衡価格といいます。このように価格の変化を通じて、自然と売れ残りも品不足も生じない効率的な状況になることを、価格メカニズムといったり、価格の自動調整機能といったりします。
(5)需要曲線のシフト
ここからが高校レベルです。価格以外の要因が変化した場合に需要曲線・供給曲線がどのように変化するかを扱っていきます。では、クイズを出しておきます。
クイズ ①発売当時定価3,000円だった「たまごっち」はいくらで販売されていたか? ②発売当時定価15,000円だった「エアマックス95イエロー」はいくらで販売されていたか? ③最も高く売れたポケモンカードはいくらか? |
①たまごっちは、現在では結構色々なところで遊ばれていますが、発売当時は大人気で品不足が続いていました。そのため価格が跳ね上がり、1つ1万円ほどで取引されていました。
②エアマックス95イエローは発売当時爆発的な人気でした。約30万円で取引されていました。エアマックス狩りといって、街中をエアマックスを履いて歩いていると靴を奪われる事件が起きたりしました。他にも、エエ抜きといって、人のエアマックスの底の部分にある空気を入れている部分を抜くといういたずらも問題となりました。
③最も売れたポケモンカードは527万ドルで日本円にすると約7億2,350万円とされています。流行になればここまで価格が上昇するのです。
これらの現状は需要曲線のシフトから説明できるのです。需要曲線は人々の所得や満足度が影響を受けます。結論を先に言うと、買い手の増加、買い手の所得の増加、その商品への満足度の増加によって需要曲線は右側へシフトします。
たとえば、買い手が増えたら単純に買いたいと思う数量も増加するでしょう。よって、需要曲線は右側に移動します。所得については、自分の財布に100円しか入っていない場合と比べて、1万円入っている場合には駄菓子屋に行ったときに購入量が増えるという直感的感覚でとらえればよいでしょう。満足度については、流行を考えてください。先ほどのたまごっち、エアマックス、ポケモンカードの事例はともに需要曲線のシフトから説明できると思います。
(6)供給曲線のシフト
次に供給曲線のシフトについてです。これも先に結論を言うと、売り手が増加したときや、生産に関わる費用が低下した場合に右側にシフトします。具体的に言うと、原材料価格の低下、技術革新、補助金を出してもらえるようになったときなどです。
たとえば、例えば規制緩和でこれまで新規参入できなかった産業に企業が参入できるようになると供給曲線が右側へシフトします。これまでタクシー業を営むのが難しかったけれども、ライドシェアといって簡単にタクシー業を営むことができるようになれば、タクシー料金は下がることをは、供給曲線が右側へシフトすることから説明できます。生産費用の低下については、たとえば昔の電卓は何十万という価格で売られていました。しかし、現在では技術革新によって、簡単に生産可能です。これは費用が低下したのだと考えるようにしてください。
ここで、高校生が一番よく間違う「間接税の導入」が需給曲線にどのような影響を与えるかを説明しておきます。多くの人は直感的に需要曲線が左にシフトすると考えます。なぜかと問うと「高くなれば欲しくなくなるから」と答えてくれます。たしかに、価格が高いほど需要は減少します。でも、それはシフトとはあまり関係ありません。それは下図のように、需要曲線を単に読み取っているに過ぎないのです。
しかし、このシフトの大前提は「価格以外の要因が変化」した場合を考えることです。つまり、「間接税が導入された場合」を考えるのです。たとえば、消費税(間接税)が20%になったとしましょう。その場合には、お店側はこれまで100円で売っていた商品を120円売らなければなりません。なぜなら、20円分は税務署に納める必要があるからです。つまり、これは生産のための費用が増えたと考えます。よって供給曲線は下図のように左上にシフトします。シフトの問題で一番ややこしいところですので気を付けてください。
(7)それぞれの市場での需給曲線
最後に市場ごとに需給曲線の意味が変わることについて解説しておきます。これも高校生は教えてもらわないと分からないところです。市場の種類は大きく3つ分かれます。財・サービス市場、労働力市場、金融市場です。財・サービス市場は商品の売買に関わる市場で縦軸が価格、横軸が商品の数量という理解で大丈夫です。問題は残り二つです。
労働力市場は、労働力の売買つまり働きたい人(労働者)と雇いたい人(企業)との関係を示したものです。縦軸のPの意味は「賃金」となります。横軸のQの意味は「労働者数」となります。
需要曲線と供給曲線がどのようなこと意味しているか理解しておくことも重要です。賃金が高ければ増えている供給曲線の方が「労働者の気持ち」を示したものです。皆さんも時給1000円の牛丼屋よりも2000円の牛丼屋で働きたいと思うでしょう。逆に企業はできるだけ安い賃金で働いてもらいたい。よって需要曲線は「企業側の気持ち」を示したものであると言えます。
次に金融市場です。ここではお金を借りたい側とお金を貸したい側が取引をする市場です。縦軸のPは「金利」を意味します。金利とは簡単に言うとお金のレンタル料です。横軸は取引される「資金量」です。
お金のレンタル料つまり金利が低ければ低いほどありがたいのが借り手です。よって、金利が低いほど増えている需要曲線が「借りたい側の気持ち(個人・企業)」を示したものであると考えましょう。逆に金利が高いほど増えている供給曲線が「貸し手側(銀行)」の気持ちを表したものであると考えてください。もしも、労働力市場や金融市場の需給曲線が出題された場合には、きちんと縦軸やそれぞれの曲線が何を意味するかをメモしてから問題を解くことを強くお勧めします。
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