市場の失敗(外部効果・公共財・情報の非対称性)

(1)外部効果

 次に市場の失敗のうち外部効果について解説します。外部効果とは取引に関係のない第三者に悪い影響を与えたり、良い影響を与えることです。これがなぜ市場の失敗なのか疑問に思われることが多いです。特に良い影響を与える場合も「失敗」と表現することに違和感があるようです。市場の失敗とは、必要なものが必要なところに行き渡らないことだ思い出してください。第三者に悪い影響を与える場合は作りすぎ、逆に良い影響を与える場合は、もっと作るべきなのに作られないということで市場の失敗と考えればよいかと思います。

 第三者に悪い影響を与える外部効果のことを外部不経済といいます。典型的なのは公害や環境問題です。企業は利潤の追求を第一に考えます。そのため生産過程で廃棄物がたくさん出たとしても自分たちがコストを負担しないのであれば生産をやめません。たとえば、地球温暖化問題です。この場合、自動車産業に自由に生産活動をさせていたらどんどん環境が悪くなります。逆に良い影響を与えるのが、外部経済です。たとえば、駅ができたことによって近隣住民の利便性が増すとか、コンサートのチケットを購入できなかったけれど音漏れを楽しめたっていうような例です。この場合には、まわりに良い影響を与えているのですから、もっと生産するべきですよね。そういった意味で市場の失敗です。

 このような外部効果は自由放任では解決できません。そのため、政府による対策が必要になります。大きく三つあります。一つは税を課したり、補助金を与えるというやり方です。これは経済的インセンティブを与えるという言い方をします。たとえば、温室効果ガスを出す企業に対しては、生産に応じて課税するという方法です。この場合、政府は課税によって得た収入を温暖化対策に使うことができます。このようなやり方を外部不経済の内部化という言い方をします。逆に良い影響を与えている場合には補助金を出せば、より社会にいい影響を与えることができます。駅の開発に地方公共団体がお金を出したりするのはそういった理由です。二つの目の対策が法的に規制していまうことです。三つ目の対策が、権利関係を明確にした上で交渉をさせるという方法です。たとえば、水質を汚染するような廃棄物を出す企業と漁業を行う団体があるとしましょう。その場合、漁業を行う団体に魚を取る権利があるならば、その団体は権利侵害分の補償金を要求するといったものです。

(2)公共財

 次は公共財です。道路、公園、学校などは社会全体に必要なものです。しかし、自由放任の状況では、民間企業はそのようなものを絶対に作りません。たとえば、灯台の光を想像してください。灯台の光は船が難破しないためには欠かせないものです。しかし、民間企業は灯台を建設しようとはしません。なぜなら、灯台の光は、費用を負担していない人でも誰でも見ることが可能です。このような性質を非排除性といいます。誰でも利用できるのであれば、誰も料金を払いませんので、民間企業はそのようなものを作ろうというインセンティブが働かないのです。また、灯台の光は同時に皆が利用することが可能です。なくならないのです。このような性質を非競合性といいます。非排除性と非競合性を併せ持つ公共財を純粋公共財と言います。民間企業では供給されないので、政府が税を徴収し、民間企業の代わりに供給しようとすると考えればよいかと思います。

(3)情報の非対称性

 最後に情報の非対称です。これは商品の性質やその市場について売り手と買い手に情報の偏りがある状況を指します。そのような場合には、取引そのものが成立しません。例として、保険市場と中古車市場について説明します。典型的な保険取引とは、保険会社に対して契約者は月々保険料を支払う代わり、もしも契約者が事故や病気になった場合には保険金が支払われるというものです。この場合、保険契約者は保険会社よりも将来が予測しやすいです。つまり、自分が病気なのかケガをしやすいのか、保険会社よりも自分の方がよく分かっています。自分が将来病気になりそうな人は、高い保険料で手厚い補償を受けられる契約と、安い保険料でそれほど手厚くない契約のどちらを選ぶでしょうか。おそらく、前者でしょう。すると手厚い契約ほど将来病気になりやすい人ばかりが集まってくる。保険会社としては、それは困るので、より高い保険料請求するようになる。健康な人はそのような保険契約はしたくない。このようにして保険契約自体が成立しなくなってくるのです。

 中古車市場は逆に企業側が情報をたくさん持っている場合です。企業はどの車が壊れやすいかを把握しています。しかし買い手にはそれは分かりません。すると企業側はどうせ分からないのだからと欠陥品の車ばかりを仕入れて販売するようになります。また、買い手側も噂などから中古車は品質の悪いものばかりだと知るようになり高い価格で中古車を買おうとは思わなくなります。すると粗悪な中古車を売る企業と安い価格でしか中古車を買わない買い手しか市場に残らなくなります。このようにして中古車市場が崩壊します。

 このような状況を回避するためには、政府が情報の偏りを緩和するための対策をとる必要があります。たとえば、保険契約をする場合には保険会社の多くは健康診断結果の提出を契約者に求めます。この際に嘘があった場合には契約が無効となるように法制度を整えておくのが政府に仕事です。他にも中古車の販売であれば、その中古車の製造年などの表示を法的に義務づけるのが政府の役割です。

以上で市場の失敗の説明を終わります。市場の失敗は、政府がなぜ経済政策や法的規制を行うのかを示す基本的な理論です。社会を見る目として有効ですので、ぜひマスターしておいてください。