市場の失敗①(独占・寡占)

授業

ここでは、市場の失敗について解説していきます。特に独占・寡占について扱います。

市場の失敗とは

市場の失敗とは、市場メカニズムがうまく働かないために資源の適切な配分が行われないことを指します。大きく分類すると①独占・寡占、②外部効果、③公共財の供給、④情報の非対称性です。

分類特徴
①独占・寡占欲しい人がいるにも関わらず企業側の都合で生産量が少ない。電気・ガスなどの独占市場やビールやスマホなどの寡占市場がある。
②外部効果取り引きと直接関係ない第三者が影響を受ける。悪い影響を与える場合を外部不経済、良い影響を与える場合を外部経済という。公害は典型的な外部不経済。
③公共財の供給道路や公園など皆に必要なものを民間企業が供給しない。
④情報の非対称性売り手と買い手の間で商品などに対して情報量に差が生じており、取引がうまくいかない。

難しいと思いますので、まず市場メカニズムとは何かを説明します。市場メカニズムとは、価格を通じて、必要なものが必要なところに行き渡る仕組みです。たとえば、スーパーのお惣菜は夕方になったら価格が安くなって売れ残りがなくなる。これも一種の市場メカニズムによって資源配分がうまくいった例と言えます。他にも、たとえば、人気なゲーム機たとえばPS5なんかが開発され販売されたとします。その場合には、やはり旧盤のPS4の人気はなくなっていきますよね。つまり、PS4の需要がなくなり価格が下がる。一方でPS5の価格は人気なので上昇する。すると企業側は、PS5の方が高く売れるので、PS4を製造するために使われていた労働力や工場や原材料などは、PS5の方に移行しようとしますよね。このようにして、世の中の限りある労働力や原材料、お金などが必要なところに行き渡るようになる。これが価格を通じた資源の最適配分であり、市場メカニズムの正体です。

市場の失敗とは上記のような市場メカニズムが働かないことを指します。社会に必要なのに誰も作らなかったり不足していたり、逆に社会にはあまり必要ではないのに作られ過ぎてしまう。このような現象を市場の失敗といいます。なぜ、価格メカニズムがうまく働かないかと言うと、市場メカニズムが働くためには「完全競争市場」という前提条件が揃っている必要があるからです。

完全競争市場
①市場に参加できる企業や消費者が多数いること
②市場への参加や撤退が自由であること
③それぞれの参加者が単独で価格を決めることはできないこと
④それぞれの参加者が市場や商品に対して共通の情報をもっていること

よく考えるとこのような条件を満たす市場など存在しないのです。たとえば、カラオケの機器メーカーは世の中に2つしかありません。ビールメーカーや自動車メーカーだって数えるほどしかないですよね。それに消費者が、商品のことやその商品が扱われている市場のことを企業と同じくらいに知っていることなどありえません。よって、程度の差はあるとしても、あらゆる市場で「市場の失敗」は起こっていると考えたらよいと思います。ここでは、市場の失敗として、独占・寡占について解説していきます。

独占・寡占について

独占とは売り手が1社の状況です。たとえば、関西地域の企業や家に電気を届けることができる会社は関西電力だけです。このような状況を地域独占といいます。また、寡占とは売り手が少数である市場です。独占・寡占市場では、競争相手がいなかったり、競争する企業が少ない場合には、反競争的な行動を行おうとします。そのような場合には技術革新が進まず、消費者は本当に欲しいものを適正な価格で手に入れることができなくなってしまします。そのため、公正取引委員会という専門的な行政機関が独占禁止法に反することを企業が行っていないかを監督します。

独占禁止政策

独占禁止法で禁止されていることがいくつかあります。その一つがカルテルです。カルテルとは、企業同士で販売数量や価格を取り決め競争をしない協定を結ぶことです。また、談合といって、公共事業の関する仕事を国から得る際に、他の企業と話し合って入札額を高めに設定することも禁止されています。他にもトラストといって、競争しないためにライバル企業の株式を取得して事実上同じ会社になってしまうことも場合によっては禁止されます。トラストには事前に公正取引委員会の審査を受ける必要があり、結合することによって事実上競争を制限する場合には中止させられることがあります。このトラストをさらに拡大し、多角的な経営を行う企業形態をコンツェルンといいます。事業を行わない会社(純粋持ち株会社)を一つ作り、その会社が様々な会社の株式を取得して親会社として指示を出していくというやり方です。これは戦前の財閥に近いやり方であったため、戦後直後に禁止されましたが、現在では企業結合の審査さえ通れば認められてはいます。不正を行った企業には課徴金を払うことが命じされます。不正なことを行っていると自分から名乗り出た企業は課徴金が減免される制度もあります。他にも、大きい会社が仕入れの会社に圧力をかけてライバル企業と取引できないようにする、ライバル企業が撤退するまで不当に安い価格で商品を販売するといった排除行為や、取引先の立場が弱いと分かっていて取引条件をブラックなものとする搾取行為(優越的地位の濫用)も禁止されています。

事例① ビール市場

代表的な独占・寡占としてビール市場と電力市場について紹介します。まず、ビールといえば、キリン、アサヒ、サッポロなどがあります。このようなビール市場におけるビールの350mlの価格は、どこの会社も大体230円前後です。一社だけ抜け駆けして200円にしてしまうという状況はあまりみられないです。なぜ、価格競争をしないかというと、単純に価格競争は、売り手側にとって何の利益にもならないからです。もしも一社だけ抜け駆けしようものなら熾烈な価格競争がスタートします。消費者は得をしますが、企業側には何の利益にもなりません。そのため、企業側は価格以外での競争をします。たとえば、CMをたくさん流す、ビールの缶のデザインを工夫する、たくさんビールを買ってシールを集めた人に景品をあげるということも考えられます。このような価格以外での競争を非価格競争といいます。もちろん、非価格競争にも費用はかかります。なぜなら、企業側は非価格競争の費用負担を全てするわけではないからです。広告にかかる費用を商品の価格に転嫁すればいいわけですから。このような企業間の暗黙の了解による価格の高止まりはよく行われていると思います。暗黙であることが重要なのです。もしも、話し合って協定を結んでしまうと法律違反となりますから。

事例② 電力市場

もう一つの例として電力市場について紹介します。電力は特殊な市場で例外的に、これまで電力会社は地域での独占体制が認められていました。なぜなら、電気を作るのは難しいし、作った電力を目的地に送る送電網をもっているのは各地域の電力会社だけだったからです。そのため、政府は電力価格を統制することによって、地域独占を認める形をとっていました。

しかし、技術革新が進み、それなりの大企業であれば電力を作って売ることもできる時代になりました。そのため、電力を運ぶ部分だけの地域独占つまり送電だけは独占体制をとり、「電力を売ること自体は自由に競争させたらいいじゃないか」となったのです。2016年に法改正が行われ、電力の小売りの全面自由化が認められます。ここで電力事業に乗り出たのが大阪ガスでした。もちろんライバルは関西電力です。すると、関西電力としては関西に限らず他の地域でも電力を売りたくなります。そこで中部地域や九州地域などに進出しようとします。各地域の電力会社は、縄張りを荒らされたら大変だということもあり、関西電力とカルテルを結びました。「価格競争はしないでおこうよ」ってことで、完全に独占禁止法違反です。この不正事件は意外な結末となります。なんと、関西電力が公正取引委員会に自分たちがカルテルをしていることを報告したのです。課徴金は1000億円でした。課徴金減免制度というものがありまして、最初に名乗り出た関西電力は課徴金を払うことなく事件が終了することになったのです。