コンピテンシーという概念

 今回の学習指導要領では、「資質・能力」という言葉が初めて用いられ、各教科で養うべき3つの柱として、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう人間性・態度」が示されている。この「資質・能力」に当たる考え方は、国際的にはコンピテンシーにあたるものである。そもそも、コンピテンシーとは、もとはcompetentに由来するものであり、「能力がある」といった状態をあらわす英語がもとであった。アメリカの心理学者マクレランドが、アメリカの国務省の職員の筆記テストの結果と職務上の成功とが一致しなかったため、その原因を分析したところから、ペーパー試験では測りきれない人間の能力としてのコンピテンシーに関する議論が始まったとされている。

 ただし、1990年代においては、コンピテンシーに関する定義は異なっているのが実情であった。そのため、概念整理が必要であることから、1997年にOECDによるDeSeCoプロジェクトが発足した。このプロジェクトでは、コンピテンシーの中でも、特にキー(鍵)となるコンピテンシーであるコンピテンシーの中でもキー(鍵)となるものを抽出する必要があった。なぜなら、コンピテンシーは、ある文脈では重要でも、他の文脈ではそれほど重要でもないことがある相対的な概念だからである。各分野からの研究者による概念の検討や修正が行われ最終的にまとめられたキー・コンピテンシーが、「自律的行動する力」、「異質な人々から構成される集団で相互にかかわり合う力」「道具を相互作用的に用いる知力」の三つであった。

 ただし、前述したように、どのようなコンピテンシーがキー(鍵)となるかは、社会状況によって異なるため、今後を生きる人々に必要なコンピテンシーを特定する必要がある。そこで、2015年には、DeSeCoプロジェクトによって特定されたキー・コンピテンシーをアップデートすることを目的の一つとして、Education2030プロジェクトが発足した。このプロジェクトでは、DeSeCoプロジェクトの成果に立脚しつつ、OECDが研究してきたウェルビーイングの研究成果を踏まえて、2030年という時代に必要とされるであろうキー・コンピテンシーが示すことであった。このプロジェクトにおいては、キーコンピテンシーとされたのが「変革をもたらすコンピテンシー」であった。

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