宗教③(イスラム教、政教分離)

(1)イスラム教の成立

 以前にもお話したように、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は同じ神を信じる一神教の宗教です。この三つの宗教の中でも最も成立が遅かったのがイスラム教です。7世紀の前半にサウジアラビアのメッカの商人ムハンマドによって広められることになりました。ムハンマドは文字の読めない人で、ある日洞窟で瞑想をしていると神の啓示を聞こえた。そこに、大天使ガブリエルが現れて「神の声を詠め」と言われる。これをきっかけに神のメッセージを周りに伝えるようになります。なので、ムハンマドは神でも神の子でもなく、「最後の預言者」とされています。

当時のメッカではその地域ごとの多神教が広まっており、ムハンマドの教えは全く受け入れられず、迫害を受けることになります。そのため、ムハンマドはメッカを離れ、少し北にあるメディナで布教を続けます。ムハンマドは、メディナで信者を70人ほどに増やした後にメッカを攻め込み、多神教の神殿を次々に破壊します。そして、カーバ神殿を建てます。なので、イスラム教にとっての最大の聖地はサウジアラビアのメッカにあるカーバ神殿となります。

(2)六信五行

そもそもイスラムとは、アラビア語で「神の教えに帰依すること」つまり、神の教えに絶対的に従うという意味があります。ムスリムとは、イスラム教の信者を指します。イスラム教の教えはムハンマドが神から預かったメッセージをまとめた「クルアーン」とムハンマドや弟子たちの言ったことや行ったことをまとめた「ハディース」に記されています。クルアーンはムハンマドの言葉をまとめたものなので、アラビア語しか認められません。イスラム教の教えを端的に示すと「神への絶対的な服従」、「平等」、「相互扶助」の三つです。もう少し具体的にまとめた教えが「六信五行」です。以下では、それぞれを確認していきましょう。

まずは、六信です。イスラム教徒が信じるべき六つの事柄です。1つ目が「神」です。アラビア語では、「アッラー」と言います。偶像崇拝の禁止つまり、神を絵に描いたり銅像を作ることを禁止しています。これはイスラム教に限らずユダヤ教やキリスト教にもみられる教えです。神は可視化できるものではないと考えるためです。また、ハディースではムハンマドを描くことも禁止されています。2つ目が「天使」です。一番有名の天使はガブリエルです。ガブリエルは、キリストの母マリアに対して、「あなたのお腹の中に神の子がいますよ。」って伝えに行ったり、ムハンマドに「神の声を詠め」と言った天使です。3つ目に聖典「クルアーン」です。先ほども言ったようにアラビア語以外は認められません。4つ目に「預言者」です。「予言」でなく「預言」なのは、神の言葉を預かったという意味だからです。ユダヤ教の時に出てきたモーセもキリスト教のイエスもイスラム教においては皆預言者として扱います。キリスト教では、イエスは神の子なので違いに注意してください。5つ目に「来世」です。世界が終わりを迎えるときに来世に天国に行ける人と地獄に行く人が決まる。これが最後の審判です。6つ目に「天命」です。イスラム教徒が未来のことを語るときにはアラビア語で「神が望むなら」(インシャーアッラー)と付け加えるとされています。未来を決めるのは神なので人間が予想するのはおこがましいという発想です。

次に五行にうつりましょう。信じるだけでなく行動することが求められるのです。イスラム教徒が行うべき5つの事柄を簡単に説明していきましょう。1つ目が「信仰告白」です。「アッラーの他に神はなし。ムハンマドは神の使徒」とアラビア語で唱える必要があります。これを礼拝するたびに唱える必要があります。また、イスラム教に入信するためには男性信者2人の前でこの言葉を唱えれば良いとされています。2つ目に「礼拝」です。メッカの方向に向かって1日に五回(早朝、正午、午後、夕方、夜)お祈りをします。場所はどこでも良いです。この時のお祈りの動作は皆共通しています。3つ目に「喜捨」です。貧しい人のために自分の財産を出すことです。現金の場合には全体の2.5%とされています。喜捨した人はその分だけ天国に近づくことになります。そのため、もらう方も喜捨させてあげているということか特に感謝の言葉を述べないと聞いたことがあります。4つ目に「断食」です。イスラム歴の9月一ヵ月間は日中食事をとらないことです。心身深い人は唾もの飲み込まないと言います。断食は日中だけなので夜になるとパーティーが行われラマダンで逆に太るとも言われます。もちろん妊婦さんや病人は免除されます。最後の5つ目に「巡礼」です。人生で一度はメッカを訪れることです。

(3)イスラム法

イスラム法とは、イスラム教徒が守らなければならない規範でアラビア語でシャリーアと呼ばれます。クルアーンやハディースなどをもとにイスラム法学者たちによって作られたものです。内容は信仰上の義務から相続や婚姻など日本でいうところ刑法や民法に相当するものが含まれます。つまり、私たちの思い浮かべる法律よりもその範囲は広いと思ってください。また、法律は人間が作るものですが、シャリーアは神の意思を記したものです。全ての内容が絶対に禁止ではなく、最も厳しく禁止されているものから、努力目標的なものまでその拘束力の強さはそれぞれ異なります。たとえば、お酒を飲んではいけない、豚肉を食べてはいけないといった決まりは最も守らなければならない内容のこととなります。

 イスラム教の国の中でもシャリーアと国の統治の仕方の関係は大きく異なります。サウジアラビアやイランでは、シャリーアの強い影響を受けた法律や憲法が定められています。サウジアラビアでは窃盗は手首の切断、死刑は斬首刑です。この国はスンニ派というイスラム教の中でも多数の人が大半を占めます。一方で、イランでは、イスラム教の中でも少数派のシーア派の人が多くを占め、イスラム法学者を重んじるため、イスラム法学者が終身の最高指導者に就きます。まさに聖俗一致の国です。他方で、トルコなんかは、大半の国民がムスリムですが、政教分離を徹底しており、大学などの公の場でのヒジャブ(スカーフ)や大きな布で全身を覆うチャドルの着用を禁止しています。以上のように、イスラム教は公共空間における仕組みとして機能している面が大きいです。

(4)政教分離をどう扱うべきか

 イスラム教と政治や社会の仕組みは切り離しにくいと説明しましたが、他方で、西洋のキリスト教圏では、宗教と政治を切り離していこうという動きがありました。特に西洋では、教会の力が強く宗教が政治権力よりも上位にある傾向でした。そのような状況の場合には、たとえば学校で神話を教えねばならずダーウィンの進化論を教えることができないといった状況が起こってしまいます。このような状況を回避するためにフランスでは、厳格に政教分離を行い、公共空間

前提知識1(資料集P) 日本の政教分離

日本では戦前の国家神道が国民の内心の自由を侵害していた点や戦争遂行につながった反省から憲法に政教分離の原則が定められた。そのため、日本の公立学校での宗教教育は禁止されている。

裁判所の判断としては「目的効果基準」が出されている。目的効果基準とは、公的な団体が行った行為の目的が宗教行為に該当するかどうか、またその効果が特定の宗教を援助したり抑圧するものでないかを基準とするもの。

前提知識2(資料集P) イスラムの法

イランでは

前提知識3 各国の政教分離の状況

フランスではライシテといって

前提知識4  フランスのライシテ

前提知識5 日本のイスラム教徒への対応