地方自治①

(1)地方自治とは

 今回は、地方自治について学習していきたいと思います。実は、この分野が大学入試では最頻出です。入試前の高3生には最後に地方自治の内容を復習してから受験に向かうように言うくらいです。では、なぜ地方自治が日本の入試では頻出なのか?

 それは、やはり社会の問題を自分ごととして考えやすく、民主主義つまり自分たちのことを自分たちで決めるという原理を学ぶのにちょうどいいからなのでしょう。学校できちんと地方自治を教えるべきだというメッセージだと私自身は個人的に思っております。

 アメリカの政治学者ブライスは、「地方自治は民主主義の源泉であるだけでなく、最良の学校である」と述べています。他にもトクヴィルという人は、アメリカの民主主義を分析したフランス人なんですけど、地方自治は自由を民衆の手の届くところに引き渡すと言っています。

(2)日本の地方自治の仕組み

 まず、押さえておきたいのが、明治時代には地方自治という考え方がなかったということ。明治政府が成立する前の江戸時代を思い出してください。それぞれの藩にお札なんかがありました。また、勝手に藩を出ようものなら罰せられる時代です。各藩が国みたいなものです。つまり、日本全国がかなりの地方分権でした。明治政府は、そのような体制をやめて作られたのですね。だから、明治憲法下では、地方自治なんて実現する訳がないのです。もちろん、地方政府として都道府県はありました。しかし、各県の知事は、内務省のエリート官僚がなるものでした。

 その後、1945年に日本が戦争に負けます。日本を占領したGHQは、日本の民主化を要求します。先ほど言ったように、地方自治は民主化にはちょうどいいのです。そこで憲法に「地方自治の本旨」という言葉が記され、地方自治を行うことが要請されるようになる。この地方自治の本旨には、2つの意味があるとされています。

 1つは、「住民自治」という考え方です。自分たちの地域のことは自分たちで決めるという考え方です。選挙で議員さんや首長を選んだり、直接請求権を行使するために署名を集めたりといったものですね。ちなみに地方議会の議員さんは3か月以上その地域に住んでいないと立候補できません。昔、ある女性議員さんが、「当選したけれど、そもそも居住実態がない」と批判されたことがありました。その議員さんは、「水道代がもったないので、トイレの水は毎回流さない」と反論しました。結局、選挙管理委員会は、その議員さんを当選無効にしました。

 もう1つが「団体自治」という考え方です。自分たちの地域のことは国から独立して行うという考え方です。条例で自分たちのルールを自分たちで決めて実行するというのはまさしく団体自治です。住民票の発行や都市計画なども団体自治です。たとえば、大阪狭山市は、条例でパチンコ屋を営業することが禁止されています。すぐ、お隣の堺市に入った瞬間にパチンコ屋があるんですけどね。

(3)地方公共団体の機関

 地方公共団体には大きく2つの機関があります。首長と議会です。首長というと知事や市町村長を指します。市長などというと人物を思い浮かべるかもしれませんが、あのような人たちを一つの役所や機関だと考えてください。もちろん、一人では何もできませんから、市役所の人に色々と指示を出します。それらは全て首長がやったことだとする。これように、政治学習では考えたらいいと思います。首長にとって特に大事な仕事が、予算や条例案の作成です。これらの案を議会に提出する。もちろん、この案は首長一人ではなく市役所の多くの人たちが考えたものです。このような案を議会に提案します。議会が賛成したら条例案や予算案は成立します。成立した条例にもとづいて色々なことを執行するのも首長の役割です。

 もう一つは議会です。これは議決機関と言われます。議員さんも条例案を出すこともできます。しかし、ほとんどの場合、首長が条例案を作成します。議会は、首長がもってくる予算案や条例案が市民の意見を反映されたものとなるかどうかをチェックする機関だと思ったらいいです。皆さんがもしも何か地域の政策を議会に考えてほしい場合には請願という手段ががあります。これは憲法に定められたもので未成年でもできます。ただし、議員さん一人の紹介が必要ではあります。請願して、議会で採択されたら、実現への道が開ける可能性もあります。

 ちなみに議会で議決される条例についてですが、条例違反で逮捕されたりすることはあるんですよ。たとえば、電車内の痴漢は、大阪府迷惑防止条例にもとづいて大阪府警が犯人を逮捕します。また、条例は国の基準よりも様々なことを厳しく設定することもできます。琵琶湖の水質なんかは滋賀県の条例で法律以上に厳しく定められています。ありがたいですね。

 これらの地方における首長と議会の関係を「二元代表制」といいます。それぞれが市民から選ばれており、住民に対して責任を負う仕組みです。議院内閣制のように連帯責任制ではありません。

 他方で、議院内閣制の要素も一部あります。議会は首長に対して不信任決議を行うことができ、首長も議会を解散させることができます。ただし、不信任を要件は、国レベルよりも厳しいです。まず、議会は不信任を出したければ、議会の3分の2以上が出席し、4分の3以上が賛成している必要があります。首長がほぼ全員に嫌われている状況ですね。自分達の地域住民が選んだ大統領的存在を簡単に不信任できないということです。国政だと衆議院の過半数でいいので大きな違いですね。

 一方で、首長は、不信任を出された場合にしか議会を解散できません。対抗的解散というやつです。内閣はいつでも解散できるというのが通説なので、この違いは押さえておいてください。また、首長は議会が議決したものを再議に付すことできます。つまり、もう一度話し合いをやりなおしてくださいということができます。いわゆる拒否権というものです。ただし、これも議会が再度話し合いをして三分の二以上が賛成した場合には議決されることになります。首長がいくらでも拒否権を使えたら独裁になりますからね。

 最後に、その他の機関として行政委員会があることも知っておいてください。これは専門的であったり、政治的に中立な行政機関です。分かりやすいのが教育委員会です。教育委員会は4人の委員で構成されます。首長は、議会の同意を得た上でこの4人を任命します。任命時こそ首長の力が及びますが、その後は教育委員会の仕事に首長は口出しできません。

 どんな人が選ばれるかというと、保護者代表や、教育学者、行政経験者などです。この人たちは首長に介入されることなく教育に関すること、たとえば先生の人事なんかを決めることができます。ただし、実態としては、基本的に非常勤なので、教育委員会傘下の職員、つまり育行政に関わる人(元教師)が決めることになります。これは一応、政治的中立を守るためであったり、専門的知識のいる仕事を行ってもらうための仕組みです。

(4)直接請求権

 これは中学校で学習済みですね。自分で表で確認するようにしてください。ポイントは、署名の提出先と実際に動いてほしい機関は、異なるのが普通である点です。たとえば、議会を解散してほしい場合に、議会に署名を持って行ったりしません。この場合は選挙管理委員会ですね。

 昔、生徒たちが「○○先生を転勤させないで!」ということで、学校内で署名集めが行われたことがあります。でも、その生徒たちは、集めた署名を○○先生に直接渡しちゃったんですよね。そういった場合は、任命権者や人事権者に署名を渡さないといけないんです。直接請求権の考え方をうまく使えなかったのだなと傍から見ていて思いました。

 ただし、事務の監査についてだけは、そのまま監査委員に請求します。事務方が不正をしていないのかどうかをチェックしてもらうことが目的なので、監査委員に請求したらいいのです。あと、高校レベルの細かい知識として、副知事等の解職については、任命権者の首長に提出することになります。また、彼らは選ばれていないので、住民投票によって解職するかを決めるのではなく、議会の議決で解職するかが決まるということも知っておいてください。

(5)住民投票

次にややこしいところとして住民投票について押さえておきましょう。住民投票とは文字通り、その地域に住む住民によって行われる投票です。これには4つも種類があるので注意してください。

①地方特別法の制定に関する住民投票

地方特別法とは、その地域だけに限定して法的拘束力のある法律のことです。たとえば、「広島平和記念都市建設法」などです。これは広島にだけ法的な影響が及ぶ法律です。普通、法律は国会で議決されます。しかし、地方特別法は国会の議決だけでなく、その地域住民による住民投票でも過半数の賛成をもらわないといけないと憲法に記されている。その地域の人たちだけに影響が及ぶ法律を東京にいる国会議員たちのみで決めてしまうのは不公平だからです。やはり、その地域の住民の賛成は必要です。それが民主主義というものです。これは憲法にも明記されている重要な直接民主主義の仕組みの一つです。よって、法的拘束力のある住民投票です。

②解散や解職請求の住民投票

 これは先ほどやった直接請求権を行使した後のリコールに関わる住民投票です。地方自治法に定められたものです。わざわざ有権者である住民の3分の1も署名を集めた結果行われる住民投票です。もちろん、結果には法的拘束力が伴います。

③条例による住民投票

在日米軍基地をどうするか?(沖縄県)、原子力発電所をどうするか?(新潟県)など地域の重要事項について住民に賛否を問う住民投票です。これは各地域で「意見を聞いてみようか?」といった趣旨の条例が定められた場合に実施されます。あくまでも条例を根拠に意見を聞くだけなので、投票結果に法的拘束力はありません。法的拘束力がないため、条例を根拠にする住民投票において、外国人や中学生が投票したこともありました。

④大都市法にもとづく住民投票

最後は日本で1度だけ実施された住民投票です。大阪都構想に関わる住民投票です。大阪都をつくり、東京のような特別区を設置しようという構想でした。これは大都市法という法律に記された住民投票で、結果に法的拘束力がありました。否決されましたが。

 その他の論点として、外国人の参政権についても解説しておきます。外国人には選挙に立候補する権利も投票する権利もありません。先ほどの条例を根拠とした住民投票に外国人が参加したことがあると言いましたが、あくまで意見を聞くだけのものなので厳密には参政権があるとは言えません。

 外国人の選挙権については、判例も出ています。最高裁判所は、外国人の選挙権について、国政レベルでは与えることはできないとしています。国民主権ですからね。ただし、最高裁は、地方参政権については、外国人に与えることは憲法上禁止されていないという立場をとっています。勘違いする人が多いのですが、禁止されていないだけで、地方レベルでも外国人には選挙権はないということを押さえてください。