地方自治②

(1)地方自治体の仕事

 地方自治体はどんな仕事をしているでしょうか。試しに平日の昼頃に市役所に見学に行けばいいと思います。受付事務や相談窓口など結構多岐にわたります。それらの仕事を執行するのが首長ですね。

 地方自治体の仕事は大きく二つです。一つは自治事務です。これは、自分の自治体の都市計画を立てたり、小学校の先生の人事を決めたり、住民票を発行したりなどなど、自分たちの町を運営するために自分たち行う事務です。もう一つが法定受託事務です。これは本来は国がやるべき仕事を法律に基づいて国から地方にお願いして行う事務です。例えば、パスポートの交付です。本来は国(外務省)が行うべき仕事と言えます。でも、外務省の人も大変だし、わざわざ東京の外務省までパスポートを取りに行くのでは、住民も大変です。できれば市役所で済ませたい。このような事務が代表的な法定受託事務です。他にも国政選挙や戸籍事務、生活保護関係、国道の管理などが該当します。

 ここで、良く出題されるので押さえておいて欲しい知識があります。このような二つの分類は、1999年に制定された地方分権一括法によって生まれたということです。それまでは、固有事務と機関委任事務という名前でした。固有事務は国の関与が大きく、機関委任事務は国の下請け仕事でした。これでは、地方分権が進まないということで現状のようになったのです。なぜか、機関委任事務がなくなったという知識を問う問題が20年以上経つのに聞かれることがあります。

(2)地方財政

 地方自治体のお金関係の話しもしておきます。これも中学校で学んでいると思いますが、地方自治体は地方税として独自にお金を集めていますが、自分たちだけの財源だけでも十分に活動ができない。全体の三割から四割のお金しか集められないので、「3割自治」なんて言われたりします。

 国と地方の予算の関係ですが、これは中学校で学習済みだと思います。まず、使い道が自由(一般財源)で国からもらっているお金(依存財源)が地方交付税交付金ですね。このお金の目的は自治体間の格差をなくすことです。住んでいる地方によって受けられるサービスに大きく差があると不公平なので、国があらかじめお金を徴収して地方自治体に渡すのです。もう一つが、国庫支出金です。これは使い道が決まっていて(特定財源)、国からもらっているものです。たとえば、教員の給料の一部は国庫支出金から出ています。他にもダム建設費なども国家支出金から出ています。

 その他に地方債というものもあります。これは使い道を決めた上で自治体が独自に発行する借金証書です。昔は、国からの許可がないと発行できませんでしたが、現在は国と協議の上で同意を得ていれば発行することができます。このように地方自治体の独自性に任せるのが現在のトレンドでして、地方独自税というものもあります。これは独自にその地域が徴収する税です。これも、国からの同意があればできます。

 大阪なんかだと宿泊税が地方独自課税です。他にも京都では2023年から空き家には税を課す空き家税を導入しています。なんでも良いというわけでなくて、税の公平性や実効性から考えて、国が同意してくれない場合もあります。たとえば、泉佐野市が昔「犬税」というものを導入しようとしました。犬を飼っている人には道路をきれいにするために税を徴収しようとしたのです。これについては、国(総務省)は同意しませんでした。誰が犬を飼っているかを把握するのって結構難しそうですもんね。

(3)2000年代の地方自治改革

 まず、代表的な地方自治改革として、三位一体の改革について説明しておきます。これも結構古い知識なのですが、2002年に小泉内閣のもとで行われた改革です。地方自治体が国に依存する関係を断ち切るための改革です。三位一体というくらいだから3つです。

第1が、国庫支出金の見直しです。使い道を限定した国庫支出金を減額しようとするものです。補助金に頼られないという面では、地方が国に依存する関係が断たれたと言えるでしょう。第2は、地方交付税交付金の削減です。使い道が自由な地方交付税交付機を減額しようとするものです。分かると思いますが、この二つの改革は地方自治体にとっては痛手です。特に2つ目の地方交付税交付金は自治体間の格差をなくすためのものです。そのため小さな自治体ほど苦しくなるのです。この2つの改革を実現可能とするためになされたのが、第3が国税(所得税)の一部を地方税(住民税)に税源移譲するというものです。つまり、「自分で税を徴収してどうにかしなさい」ってことですね。

 これは小さな自治体にとっては本当に大変なことです。そのため、国は、1999年~2010年にかけて市町村合併を促します。大阪は唯一、美原町がなくなりました。堺市との合併です。その後、堺市は政令指定都市となり、旧美原町役場には、立派な美原区役所ができました。美原区は最近では、キューズモールもできて310号線が渋滞してますね。

 他方でこのような改革についていけない自治体もありました。中でも多額の借金を抱えて、倒産状態に陥る自治体もありました。2010年に、法律でそのような自治体は「財政再生団体」と呼ばれるようになりました。財政再生団体になった場合には事実上国の管理下に置かれ、様々な行政サービスのコストカットが必要となります。具体的に財政再生団体となったのは唯一、2014年の北海道の夕張市だけです。ここは炭鉱で栄えた町です。今はメロンの方が有名ですけど。1970年代から1980年代になると日本のエネルギー源は、石炭ではなく石油となります。すると夕張市での働き手は必然的に減っていく。すると税収も落ち込み、住民へのサービス水準を維持するために借金をするという構図でした。

 当時といういうか現在も唯一、地方交付税交付金をもらっていない豊かな都道府県がありますね。東京都です。東京都としては、他のしんどい自治体も助ける必要がある。そのため、都の職員が2人夕張市に派遣されます。そのうちの一人が、現在の北海道の鈴木直道知事です。

 彼の経歴をお話すると、あまり経済的に豊かでない家庭で育ち、高卒後に東京都の職員となる。職員として昼間働きながら夜間大学で大卒の資格をとった努力家です。当時の東京都知事は、そのような彼の性格や仕事内容を認められたのでしょうか、夕張市へ派遣する職員の一人とします。当初は任期が1年だったのですが、本人の希望で2年近く働いたそうです。

 彼は夕張での仕事ぶりを認められたのか、最後に東京都に帰る最後の日には、多くの夕張市民が「黄色いハンカチ」を振って見送りました。これが結構感動的なんですけど分かりますか?昔、「幸せの黄色いハンカチ」という映画がありました。主人公の男性は網走刑務所から刑期を終えて夕張の自宅に帰る途中の場面からスタートです。

 この主人公の男性は、かつて炭鉱夫として夕張で働いていた。ある日、彼の奥さんが妊娠の兆候を見せた。彼は「病院の検査で妊娠したことが分かったら、早く知りたいから、帰ってくる時間に黄色いハンカチをベランダから掲げておいてくれ」とお願いした。しかし、ある事件がきっかけで彼は刑務所に入ることになる。刑務所の面会で彼は、奥さんに離婚届けを渡す。「それでもずっと再婚せず、一人なら刑期を終えたら黄色いハンカチを掲げてくれ」と言っていた。刑期を終えて、実際に家の近くに戻ると黄色いハンカチがたくさんあるんです。奥さんは待っていてくれたんですね。鈴木さんが夕張の職員から愛されていたことが分かるエピソードだと思います。

 この後、東京に帰った鈴木さんは、次の夕張市の市長になるように周りから懇願されるんです。当時の東京都知事もその話にのり、見事最年少市長として当選します。しかし、財政再生団体ですからお金は相当厳しい。自らの給与を7割カットします。当時は日本一給料の安い市長と言われており、月額30万円もなかった。その後も夕張のために必死で働き、仕事を認められたのでしょう。次に懇願されたのが、北海道知事でした。そして、これまでコロナ対策を必死にやってきました。映画になりそうなくらいのサクセスストーリーですね。

(4)その他の改革

 地方自治に関わらず、近年の改革の特徴は国主導ではなく民間の経済活動を重視しようとするものです。できるだけ自由にやってもらうことを優先する。このような考え方を「新自由主義」と言ったりします。特にこの方向性を進めたのが、先ほどの三位一体の改革を行った小泉政権でした。他にも2002年に「構造改革特区」というものを作りました。これは、それぞれの自治体がこれまでの国の規制を緩めてもらうことを具体的に国に提案し、国が規制緩和事項を決める。そして、その規制緩和を利用したい自治体が国に認めてもらう制度です。たとえば、「どぶろく特区」といって、その地域だけはお酒の製造する免許制度を緩めてもらう。東北や北海道の多くの自治体が「どぶろく特区」を利用しています。

 他方で、2013年に安倍内閣で導入されたのが「国家戦略特区」です。こちらは、自治体の提案を国が検討することは同じです。しかし、国が主導で地域を限定し、その地域だけ規制を緩めるやり方です。たとえば、獣医学部の設置です。これは基準がかなり厳しく50年以上獣医学部は新たに設立されていなかった。それに対して、京都産業大学がある京都市や岡山理科大がある今治市が獣医学部を設置したいと提案し候補となりました。そして結局、今治市に決まった。どのようなプロセスで、今治市に決まったのかよくわからない。衆議院が批判したりもしています。岡山理科大は加計学園が運営していて、当時の総理大臣と加計理事長が仲良しだからじゃないかといった批判もありました。

 その他、公立図書館の運営を民間企業のTSUTAYAに任せてしまう「指定管理者制度」や本来は自治体や国が作るべき公共施設、たとえば刑務所を民間企業に作ってもらい運営まで任せる「PFI」といった制度もあります。

(5)ふるさと納税制度

 最後に、皆さんの家庭でも利用しているかもしれない「ふるさと納税」について解説しておきます。これは自分が住んでいる地域とは別の地域に寄付することで、住民税や所得税が免除される仕組みです。たとえば、堺市に住んでいるけれども北海道のどこかの市町村に10万円寄付するとしましょう。この場合には、9万8千円分の本来支払うべき住民税と所得税が免除されます。しかも寄付先の自治体からは返礼品までもらえます。自己負担は2000円のみです。ただし、年収に応じて限度額がありまますので、興味のある人はネットで調べてみてください。

 この制度は、返礼品を高額にすることで、自治体同士の競争を生み出すことになりました。有名なのは泉佐野市です。この市は、Amazonギフト券などを返礼品にしていた。総務省はこれを問題視し、新制度ではそのようなことはできないようした。また、同時に前の制度でそんなことをしていた泉佐野市を新制度でのふるさと納税制度から外しました。

 泉佐野市としては、昔の制度上では違法でなかったにも関わらず、新制度から外すことには納得がいきません。刑法には遡及処罰の禁止という考え方があります。法制定前に禁止されていなかったことで対象を罰することは本来できない。この争いに刑法は関係ありませんが、泉佐野市は国地方等係争処理委員会というところに、総務省のやりかたに不服申し立てを行います。それでも結論が出ない。結局、泉佐野市は国(総務省)を裁判所に訴えます。最終的には、泉佐野市が、最高裁で国側に勝訴することになりました。一応入試でも国地方等係争処理委員会については知識は問われたことがありますので、知っておいてください。