国際社会と国連

(1)なぜ、戦争はなくならないのか?

 これほどに技術が進み、国際交流が行われているにもかかわらず、なぜ戦争は止められないのでしょうか?おそらくたくさんの答えがあるかと思います。この問いに対する一つの答えは、国際社会が力の世界だからだと言えるでしょう。国際社会には、ルールを取り締まる警察もいなければ、そもそもルールを守ることを拒否すらできてしまう。本当に単純化して言うと、金と暴力がものをいう世界なのです。

 もちろん、国際社会にもルールはあります。国際社会のルールは国際法といいます。形式上は、国際慣習法と成文国際法の二つに分かれます。国際慣習法は、明文化されたわけではないけれども昔から行われており、どの国家も行うべきだと考えられているルールです。たとえば、外交特権というものがあります。外交官が外国に駐留する場合には、その国の法律が適用されず逮捕や徴税を免除されます。今でも、東京だと大使館ナンバーの車は駐車違反を取り締まれないと苦情が多く寄せられるようです。昔、「アウトレイジ」という映画があったのですが、映画のワンシーンに、暴力団が途上国の大使館の一室を借りて闇カジノをするというストーリーがありました。大使館の中は治外法権なのを利用した犯罪です。

 このような国際慣習法などの国際法について理論化したのが、国際法の父とよばれるグロティウスという人です。この人は、国際法を自然法の考え方にもとづいて説明します。自然法とは、たとえ法律などがなくても人間ならば守らないとけいないルールだと考えればよいかと思います。たとえば人を殺してはいけない、これはほとんどの人が納得するルールですよね。もしも、そんなことをしたら罰せられて当然だと思いますよね。グロティウスは、国内に自然法があるのと同様に、国家も守らないといけない自然法があるんだと考えました。例えば、何もしていない他の国を急に侵略するなどですね。これは書いてなくてもやってはいけないと考えられてきました。

 国際慣習法はすべての国に適用されますが明文化されておらず曖昧な部分があります。そのため、現在では、国際慣習法を明文化された条約にしていこうとする傾向にあります。たとえば、先ほどの外交特権は、1961年にウィーン条約で明記されました。また、公海はどんな国でも自由に利用して良いという「公海自由の原則」は、国連海洋法条約で明記されています

 国際法のうち、もう一つは成文国際法です。これは明文化されたもので、条約や、議定書、宣言などです。国際慣習法は国際社会のすべての国家が守らないといけないと考えられているのに対して、条約などは、守ることに同意した国だけが拘束されることになります。少数の国同士で話し合って、一つ一つ条約を作っていては時間がかかってしょうがない。そのため、国連が「このような条約を作ろう」と国連加盟国に働きかけます。条約を守ることを決めた加盟国は、条約に批准することになります。この際に、多くの国が、事前に自分の国の法律が条約に違反していないかどうかチェックし、条約にあわせて国内法を整備します。たとえば、日本では、男女雇用機会均等法という法律は1985年に制定されましたが、それは女子差別撤廃条約に日本が批准する際の準備としての行動でした。

 以上の説明から、「なぜ、戦争がなくならないのか?」という問いの答えが一つ見えてきますよね。つまり、国際社会におけるルール、その中でも条約は、守りたい国にしか適用されないのです。たとえば、あらゆる核実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)というものがあります。日本はこの条約に批准していますが、アメリカやロシアは未批准です。国内問題と違って国際問題がより不安定で複雑なのは、この点にあることを押さえておいてください。

(2)国際裁判制度

 先ほど、国際法は国際社会においてあまり意味をなさないとしましたが、完全に無力なわけではなく、国際裁判制度というものも用意されています。最も有力なのは、国連の6つの主要機関の一つである国際司法裁判所です。本部はオランダのハーグです。グロティウスの故郷です。国際司法裁判所は、すべての国連加盟国が利用できるものです。ただし、当事者である双方の国が同意した場合にのみ、裁判が開始されることになっています。日本は訴えられた場合にはいつでも裁判を受けることを表明している国ではありますが。

 日本はかつてオーストラリアに捕鯨の問題で訴えられたことがあります。国際捕鯨取締条約というのがあって、南極海では商業用の捕鯨を行うことはできないことになっている。しかし、日本は鯨の数は増えているので商業用の捕鯨を行ってもいいという立場をとっていた。そのため、南極海で鯨の数が増えていることを示すための調査捕鯨をしていました。この調査の際に取れた鯨肉は市場に出回っていました。オーストラリアは、日本の調査捕鯨は事実上の商業捕鯨ではないのか?として日本を訴えました。結果、日本はこの裁判で負けております。裁判は一審限りで終了です。この後、日本は国際捕鯨取締条約から脱退し、領海や排他的経済水域で商業捕鯨を行っております。

 国際司法裁判所は、裁判だけでなく、国連の他の主要機関(国連総会や経済社会理事会など)から求められて勧告的意見を出すことができます。この勧告的意見には法的拘束力はありません。しかし、国際世論には大きな影響を与えます。たとえば、かつて国際司法裁判所は、国連総会に求めに応じて、イスラエル政府がパレスチナの占領地区(ヨルダン川西岸地区)に壁を建設したことについて勧告的意見を出しています。壁建設は地域住民を苦しめるもので、国際法違反でありただちに中止するべきというものでした。また、核兵器の使用や威嚇についても国際法違反であると勧告的意見を出しています。

 国際司法裁判所と並ぶ有力な裁判所に、国際刑事裁判所というものがあります。2002年に設立されたもので、2002年以降の集団殺害、一般住民の虐殺、戦争犯罪などを起こした個人を裁きます。先ほどの国際司法裁判所は国連の主要機関でありすべての国連加盟国が裁判の対象になるのに対して、国際刑事裁判所は、ローマ規定という条約に加盟している国のみがこの裁判を利用するのが原則です。日本はローマ規定に入っていますが、アメリカ、ロシア、中国、ウクライナなど未加盟の国も多いです。

 時事的な話としては、2023年に国際刑事裁判所がロシアのプーチン大統領に対して戦争犯罪の罪で逮捕状を出しました。ウクライナの子どもをロシアに強制的に連れて行っていることが問題視されたのです。本来、ロシアのような加盟国以外の国に対しては、このようなことはできないのですが、国連安全保障理事会が、非加盟国の犯罪を取り締まるように国際刑事裁判所に付託した場合には、できることになっています。ただし、実際にプーチン大統領が逮捕される可能性は極めて低いと考えられます。

(3)国際社会の安全保障体制

 冒頭で「なぜ、戦争はなくならないのか?」と問いましたが、かつてに比べて、戦争が減っていること自体は確かです。人類は戦争を起こさない方法として、これまで大きく二つの方法を考えました。一つは、勢力均衡方式です。これはお互いにパワーバランスをとることによって戦争が起こらないようにする方法です。第一次大戦(1914年)前の三国同盟と三国協商による勢力均衡が一番有名です。しかし、軍拡競争になってしまい、うまくいきませんでした。 

 もう一つの方法が集団安全保障方式です。これは敵も味方も関係なく加盟する組織を作り、国際法違反を行った国を皆で攻撃する方法です。18世紀の時点で、カントという哲学者が『永遠平和のために』にという本の中で、そのような組織が必要であることは触れていました。初めて発足したのが、第一次大戦後の国際連盟(1920年発足)です。国際連盟はアメリカのウィルソン大統領の構想でできました。ただし、ウィルソン大統領はアメリカが国際連盟に加盟することを、連邦議会に認めさせることができませんでした。ウィルソン大統領は民主党で、共和党議員の多くいる連邦議会を説得することができなかったのです。

 国際連盟の本部はスイスのジュネーブです。国際連盟のあった頃には、常設国際司法裁判所という常設の世界初の国際裁判所も置かれていました。後の国際司法裁判所となります。他にも国際労働機関(ILO)という労働問題を専門に扱う専門機関もこの当時は既にありました。ILOは結構古いと知っておいてください。国際連盟がうまくいかなった点については大きく3つ理由があります。1つが大国の不参加です。ソ連やアメリカの不参加、そしてドイツ、イタリア、日本の脱退です。大きな国が参加しないと国際組織はうまくいかないのです。2つ目が、総会の決定方式が全会一致だったことです。これでは何も決まらない。ちなみに、現在の国際連合の総会の決定は、一般的な内容については、出席国の過半数の賛成で議決が成立します。3つ目が、経済制裁しかできなかった点です。国際連盟は、国際法違反の国に対して、経済制裁しか行えなかったのです。以上の3つの問題もあり、国際連盟は第二次世界大戦を防ぐことはできませんでした。

(4)国際連合の構成

 最後に国際連合について解説しておきます。国際連合は、第二次大戦の反省として設立されました。本部はアメリカのニューヨークです。サンフランシスコ会議(1945年)で国連憲章が出されて、51か国が批准し設立されました。国連憲章とは、国連加盟国が守らないといけない条約です。当時の日本は、もちろんこの憲章に署名していません。なぜなら、国際連合は、ドイツや日本と戦った連合国側の組織だからです。実際、国連憲章の中には、旧敵国条項(53条、107条)というものがあります。これは日本、ドイツ、イタリアなどの旧敵国が再び侵略などを行った場合には、安全保障理事会の承認なしに軍事的措置を取ることができるというものです。

 日本が国際連盟に加盟できたのは1956年です。その前になしとげたのが、ソ連との和解でした。同年に日本は日ソ共同宣言を出しています。ソ連からOKをもらったことで国連に加盟できたのです。国連に加盟した日本としては、国連憲章の旧敵国条項を削除してもらいたいのですよね。でも、国連憲章の改正には国連総会で出席国の3分の2以上の賛成が必要なのです。よって、未だに旧敵国条項は残っています。ただし、かなり時間もたっていますので、この条文には事実上効力がないとされています。

 次に国連の組織構成について説明します。6つの主要機関で構成されています。

①国連総会です。一国一票です。一応、国連の最高機関です。国連総会は色々な国際問題について決議を行います。総会決議は出席国の過半数の賛成が必要です。ただし、重要事項については3分の2以上の賛成が必要です。この決議には法的拘束力がありません。よって、そんなに強い機関ではないと言えるでしょう。

 ただし、安全保障理事会が拒否権を行使していてまとまらず、機能しない場合に備えて、1950年に「平和のための結集決議」というものが出されました。この決議によって、安保理が機能しない場合には、加盟国の過半数の要請もしくは安保理9か国以上の要請によって、緊急特別総会を開くことが可能となりました。ここで、3分の2以上の国が賛成した場合には、平和のための勧告を出すことができます。総会の機能強化のために国連が発足してからできたものです。あくまで勧告であり法的拘束力はありませんが、国連としてのメッセージを出すことに意義があると考えられています。2023年2月には、ロシアのウクライナに対する攻撃について、緊急特別総会が開かれ、ロシアに対する非難決議が賛成多数で可決しています。

②安全保障理事会についてです。国際的な平和と安全のための組織です。安全保障理事会の決定には法的拘束力があります。15か国で構成され、アメリカ、ロシア、フランス、イギリス、中国の5か国は常任理事国です。拒否権があり、この5か国が1か国でも反対した場合には議決されません。残りの10か国は任期が2年で、地域別に国連総会で選出されます。日本は10回以上非常任理事国に選ばれています。安保理の決定は、一般事項については、15か国中の9か国の賛成が必要です。一方、軍事制裁などに関わる重要事項については、先ほどの5か国すべての賛成かつ9か国以上の賛成が必要です。

③経済社会理事会についてです。国際的な経済問題、環境問題などについて扱う機関で、UNICEFやFAO、ILOなどと連携します。また、NGO(非政府組織)とも連携をとります。NGOとは、環境問題などに取り組む民間の団体です。有力なNGOは、経済社会理事会の会合に出席し、発言することができたりします。代表的なNGOとしては、国境なき医師団、アムネスティ・インターナショナルくらいは知っておいてください。国境なき医師団は本部をパリに置き、医療支援の届きにくい現場で中立的に医療活動を行う団体です。本部はパリにあります。アムネスティ・インターナショナルは、死刑制度をなくそうとする団体です。独裁国家において政治犯などとして刑務所に入れられている人達のことを「良心の囚人」と呼び解放のための運動を行っています。本部はロンドンです。

④国際司法裁判所これはやりましたので割愛します。

⑤信託統治理事会については、現在活動停止中であることを知っておいてください。以前、国連見学ツアーに行ったところ、信託統治理事会の部屋がありました。活動しているのか聞いたところ、現在は会議室として使っているとのことでした。最後の信託統治地域だったパラオが1994年に独立したことによって活動を停止しています。

⑥事務局について、国連事務総長について知っておいてください。事務総長という名前から、事務をする人というイメージを持つかもしれませんが、国連の事実上のトップです。安全保障理事会の勧告にもとづいて、総会が任命します。慣例2期10年勤めます。現在の事務総長はポルトガル出身で、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の難民高等弁務官を務めていたアントニオ・グテーレスさんです。

 以上、国連の解説でした。国連は財政規模にしても人数規模にしても東京都以下であり、国際的に決して存在感の強い存在であるとは言えません。しかし、国際世論を代表することや人道支援の中心となることから不要な存在では決してないと考えれられていることは押さえておいてください。